コロナ禍が個人の証券取引に予想外の大きな影響を与えている。スマートフォンで証券取引ができる口座の数が大きく増加し、東京証券取引所が発表する投資部門別の売買動向でも個人のウエートが高まっている。在宅勤務の広がりや緊急経済対策の給付金支給で、時間と懐に余裕ができた人が新たに取引を始めている可能性がある。個人の存在感の高まりで投資家層に厚みが増す半面、短期志向が強まり相場の変動率が増すリスクもある。
■「投資デビュー3万人」在宅が後押し
スマホ向け株式取引サービスを手掛けるLINE証券(東京・品川)によると、新型コロナの影響が深刻化した2月25日~4月7日(30営業日)の同社経由の1日平均売買代金は、深刻化する前の1月9日から2月21日(同)に比べて約3.6倍に増加し、稼働口座数も約2倍になった。
LINE証券はLINE(3938)傘下のLINEフィナンシャルと野村ホールディングス(8604)の共同出資会社。口座数は非公表だが、同社で3~5月に投資デビューした人(口座開設者向けキャンペーンの申込者のうち、投資未経験者の数)は約3万人にのぼる。同社の顧客のうち、それまで投資を経験したことがなかった人は約6割(5月時点)という。
個人投資家の株売買が増えた背景として想定されるのがテレワークの広がりだ。在宅勤務中の空いた時間を取引に充てているとみられる。コロナ対策の政府からの給付金も財布のひもを緩ませる要因だ。「個人投資家はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の良しあしよりも、株価の上下に敏感な傾向がある。新型コロナ問題で株価が下がり『買いやすさ』が出たことが参加のきっかけとなった面もある」(東海東京調査センターの鈴木誠一チーフエクイティマーケットアナリスト)。
■売買シェアも上昇
個人の投資活発化は、東証の投資部門別売買状況からもうかがえる。6月第2週(8~12日)の個人の株式買い付け金額(グロスの買い)は3兆6783億円と2018年2月以来の高水準だった。委託内訳に占める個人の比率も足元で上昇しており、4月の第3週以降は売り買いともおおむね24%前後(2019年平均は約20%)で推移している。
彼らが手掛ける銘柄には特徴がある。ネット証券大手のSBI証券が公表する売買代金ランキング上位には最近、日経平均株価の日々の騰落率の2倍になるよう運用する日経レバ(1570)などのレバレッジ型上場投資信託(ETF)や、バイオ関連株など値動きの激しい銘柄が名を連ねる。
代表的なレバレッジ型ETFである日経レバと日経Dインバ(1357)を合わせた売買代金は、足元で1日当たり3200億円程度(2月以降の平均)まで膨らむ。1200億円程度(年間平均)だった2019年に比べ約2.5倍だ。「売買主体の多くは個人」(東海東京の鈴木氏)とみられる。
■目立つ短期売買
見逃せないのはレバレッジ型ETFが仕組み上、相場の変動率を増幅させかねない点だ。ETFの運用会社は日経平均の2倍の値動きを維持するために、日経平均が上がれば先物を買い、下がれば売りと、相場に対し順張りで日々ポジションを調整する必要がある。日経平均は先週15日に774円安となった後、翌16日には1051円高と極端な値動きをみせた。「レバレッジ型ETFが一因」(株式市場ストラテジスト)との声は多い。
LINE証券は自社の顧客の取引内容について、個別銘柄や業種名は回答しないとしつつも「足元では、比較的ボラティリティー(変動率)の高い銘柄の短期売買が目立つ」(広報担当)という。同社が17日に発表した投信の積み立て投資サービスでは「長期的な資産形成には適さない」(同社)として、レバレッジ型の投信は対象に含まれていない。
スマホという身近なツールを通じて「市場参加者の裾野が広がることは自体はプラス。積み立て投資で『買ったら売らない人』が増加すれば、日本株の底堅さにつながる」(東海東京の鈴木氏)との期待もある。個人投資家の存在感の強まりを示す一方、短期的な取引が増えると相場の乱高下につながるリスクも高くなりそうだ。(日経QUICKニュース(NQN) 大沢一将)