新型コロナウイルスによる社会や経済の変化を先取りする「ポストコロナ銘柄」が脚光を浴び、中小型株を押し上げている。物色のすそ野は、働き方や業務の改善に役立つ銘柄からM&A(合併・買収)関連の銘柄などに広がっている。銘柄選びはいまこそ腕の見せどころ。ファンドマネージャーたちは投資テーマの大きなうねりに乗って運用収益の拡大を狙おうと、企業取材や分析に余念がない。
■「DX」関連の成長性に注目
年間600件を超えるペースで企業に取材する大和アセットマネジメントの磯辺孝弘シニア・ファンドマネージャー。新型コロナの感染拡大の影響で一時は取材も滞ったが、再び動き出した。「いまは移動時間が減った分、効率的に取材できる」という。
その磯辺氏が注目するのは、組織や作業を効率化するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連企業の成長性だ。「経営陣が今後の展望について明確に語ることができる企業のビジネスモデルは頑強。ヒアリングを通じこうした点を確認している」と話す。
東証株価指数(TOPIX)は年初来安値を付けた3月16日から直近(6月29日)まで25%上昇したのに対し、小型株で構成する「TOPIX Small」の上昇率は32%。中型株の「Mid 400」は31%上昇した。個人投資家の売買が中心のマザーズの指数がこの間に82%上昇したのにはかなわないが、パフォーマンスは悪くない。
時価総額が一定以上でなければ投資対象にできないという運用上の制約がある機関投資家にとっては、中小型株こそ「アルファ(超過リターン)」の源泉だろう。上昇率が高い個別銘柄をみると、電子署名サービスなどを手掛けるGMOクラウド(3788)は7.1倍になった。クラウドサービスを提供するサイバーリンクス(3683)は2.3倍だ。テレワークの導入に求められるサービスなどを展開する企業が目立つ。
ポストコロナをキーワードとした投資信託も登場する。SBIアセットマネジメントが7月8日に設定する「SBIポストコロナファンド」は、DXやヘルスケア領域の国内外30~50銘柄を組み入れて運用する予定だ。
「これまでよりも『圧倒的』に短期間で企画を具体化できた」と、SBIアセットマネジメントの梅本賢一社長は胸を張る。人工知能(AI)技術を活用し、紙の書類をデジタル化するサービスのAI inside(マザーズ、4488)や、情報処理をパソコン本体ではなくサーバーで集中的に担う「仮想デスクトップ」のアセンテック(1部、3565)などを組み入れ候補とする。有望な銘柄があれば順次、対象として検討していくという。
■M&A加速、人材派遣の拡大に「妙味」
注目を集めるのはDXだけではない。3月16日以降、株主の実態を調査するアイ・アールジャパンホールディングス(6035)の株価は2.4倍(6月29日)になった。コロナ禍を受けた企業業績の悪化に伴い、M&Aが相次げば同社のサービス需要が高まるとの思惑が株価を押し上げたようだ。
立花証券の入沢健アナリストは人材派遣や請負事業に関する銘柄の投資妙味に着目する。「日本企業は従業員の業務範囲が不明瞭なことがネックとなり、フリーランスや請負、人材派遣の導入に難しい面があった」と指摘。テレワークの導入で業務プロセスの見直しが進めば、曖昧だった業務範囲が明確になり、フリーランスや請負・人材派遣の活用が本格化すると読む。
景気の落ち込みで企業による人材の採用抑制が警戒されるが、自動車関連や電機メーカーに技術・技能者を派遣するビーネックス(2154)は75%高。半導体分野などに派遣や業務請負サービスを展開するUTグループ(2146)は70%高と堅調だ。
ポストコロナ銘柄にはすでにバリュエーション(投資尺度)面で割高感が強まっているものも少なくない。しかし、市場で見過ごされている変化の波はまだまだあるはずだ。その波頭をいち早くとらえれば、きっと大きなアルファが約束される。〔日経QUICKニュース(NQN)長田善行〕