日本経済新聞は7月8日付朝刊で、米アップルが2020年後半に発売するスマートフォン「iPhone」の全新機種に有機ELパネルを採用すると報じた。報道を受けて同日の株式市場では有機EL材料を製造する保土谷化学工業(4112)や、成膜装置のアルバック(6728)、露光装置を手掛けるブイ・テクノロジー(7717)が大幅高となった。もっとも、ある国内証券の電機アナリストは「業界内では『アップルは消費電力抑制などを目的に有機ELを取り入れる』との予想が多かっただけに想定内だ」として、関連株の上昇は個人を中心とした短期筋の買いとみる。
■投資家の視線は「その先」
スマートフォンやテレビ、さらにデジタルサイネージ(電子看板)など様々な場面で使われる薄型パネル。かつてはプラズマと液晶の競争だった。有機ELは長い間、「次世代」「新世代」と呼ばれ続け、いまだに液晶ほど生活に密着しているとは言えない。
だが、投資家の視線にあるのは有機ELの「その先」だ。東海東京調査センターの石野雅彦シニアアナリストは「量子ドット(QD)有機EL」に注目する。QD有機ELはサムスンが独自開発した次世代テレビ向けパネルで、従来品よりも色鮮やかに表示される。サムスンは19年10月、QD有機ELの量産に1兆円超を投資すると発表していた。
恩恵が期待される銘柄のひとつが平田機工(6258)だ。有機材料をパネル基板に蒸着する「真空蒸着装置」を製造している。2020年3月期は中国でスマホ市場が活性化し、有機EL関連の受注高は前の期比4.8倍の154億円に膨らんだ。市場では「サムスンによる設備投資の恩恵や中国メーカーの積極投資も追い風に、22年3月期まで営業増益が続く」(大手証券のアナリスト)との声がある。
他にも「QD有機ELになれば製造用フォトマスクの利用枚数が増える」(東海東京の石野氏)として、エスケーエレクトロニクス(JQ、6677)やHOYA(7741)への注目度が高まるとの見方もある。有機EL製造装置を生産するキヤノントッキ(新潟県見附市)を連結子会社に持つキヤノン(7751)も関連銘柄の候補に挙がる。
新技術を用いた製品の価格は高くなる公算が大きい。液晶パネル価格が急落するなど厳しい事業環境のなかで「最先端技術が搭載されたとしてもテレビやスマホの市場拡大が見込めない限り、装置メーカーなど関係する企業への収益貢献は限られる」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリスト)といったシナリオもあり得るが、新たなパネルが開発される局面で恩恵を受ける企業は技術力が高いことに間違いない。サムスンの量産化が実現するのはまだ先なだけに、テーマの消費期限は長そうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)田中俊行〕