東宝(9602)株が減益決算を発表した翌15日に反発した。2020年3~5月期の連結決算は新型コロナウイルスの感染拡大による映画館の臨時休業などが響き、営業利益は前年同期比82%減の28億円になった。「3密」の回避などでエンタテインメント産業の東宝には厳しい環境だが、今も健闘している部門がある。DVDなどの映像事業だ。
■隠れた武器
同業の松竹(9601)は14日14時、3~5月期に8年ぶりの最終赤字になったと発表し、同日の株価は6%安で終えた。大和証券の担当アナリスト、石原太郎氏は東宝について「営業黒字を維持できた点はポジティブサプライズ」と指摘する。新型コロナの感染拡大に伴う政府・自治体からの休業要請で3月から演劇公演をほぼすべて中止し、4月以降は緊急事態宣言の発出を受け全国の映画館が休業に追い込まれた。主力の映画、演劇事業が営業赤字に転落したことを考えれば、確かに健闘したといえる。
隠れた武器が映像事業だ。DVDやブルーレイで「天気の子」などのヒット作を提供し、3~5月期に営業増収を確保した。東宝は「巣ごもり需要効果は否定しないが、断言できない」(IR担当)とするが「外出を控える傾向が続くことを考えれば、ヒット作を多く持つ映像事業は不動産と並び業績の下支えになる」(国内証券の投資情報担当者)との見方は多い。
■巻き返しに自信
同時に発表した21年2月期の業績見通しは営業利益が前期比81%減の100億円、売上高にあたる営業収入は38%減の1620億円だ。松竹は新型コロナの影響を理由に21年2月期の予想を開示しなかった。緊急事態宣言の解除後、ソーシャルディスタンス(社会的距離)による座席数制限はあるものの各事業で段階的な営業再開が可能になり、東宝は巻き返しにあるていどの自信を持っているように見える。
営業を再開した映画館は今後、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」など上映延期となっていた人気作品を順次公開していく予定で「洋画を含め、公開すればヒットを見込める作品が待機しているのはさすがだ」(前出の国内証券の投資情報担当者)との声もある。「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」も10月に上映予定だ。
■第2波の不安も
もっとも、業績計画は新型コロナ感染第2波による再度の緊急事態宣言などの社会的制限が実施されないことが前提となる。東京都を中心に感染が再び拡大傾向にあるのは懸念材料だ。「12月以降、通常の状態に戻せればという希望的観測を持っている」(東宝のIR担当)とするが、ソーシャルディスタンスの実施も長期化する可能性もある。
東宝は株式市場で「安定した大型作品を投入できる」と定評がある銘柄だ。魅力のある作品を提供し、映像事業で堅調な収益を維持できれば、コロナ禍があるていど残っていたとしても、業績は大崩れしないとの期待は大きい。〔日経QUICKニュース(NQN)宮尾克弥〕