ドルが対欧州通貨を中心にじりじりと下落している。ドルの総合的な強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数は7月20日に95台後半と、今年の安値である3月上旬以来ほぼ4カ月ぶりとなる低い水準になった。新型コロナウイルスの感染拡大から立ち直りつつある欧州と、拡大が止まらない米国。今週は米政府・議会での新型コロナの追加経済支援策の協議が始まるが、ドルの弱含みは続くとの見方が広がっている。
■欧米間の人の動きの格差
20日のドル売り・ユーロ買いを促したのは、欧州連合(EU)首脳が新型コロナで打撃を受けた経済を立て直すための復興基金案で合意に達するとの観測だ。会期は延長されているが、市場では物別れとなっていないことが「難航する協議に首脳が妥協点を見いだそうとしている証」(シリコンバレー・バンク)と前向きに受け止められた。ドルは対ユーロで3月9日以来の安値を付けた。
欧米の経済活動の差もドル売りを促す。TD証券のマーク・マコーミック氏が「今年のドルの動きの7割を説明できる」とするのは、グーグルが公開する地図アプリなどの利用者の位置情報をもとに国全体や各地域別の人の動きの増減を出す「モビリティ・リポート」だ。同氏は「ユーロ圏のモビリティは米国の5倍に達し、ドイツはコロナ前の水準にほぼ戻した」と指摘する。欧米間の人の動きの格差は相場にはある程度は織り込まれたが、この要素だけでも一段のドル安を促す余地はあるとみる。
■失業給付金積み増しは中断か
米国では追加の経済支援策が協議されている。3月に発動して以降、個人消費を支えた失業給付の週600ドル積み増しは7月末に期限を迎える。オックスフォード・エコノミクスは給付金の上積みがすべてなくなれば、「8月の米個人所得は年率で1兆2000億ドルが消失し、コロナ前より5%も低い『所得の崖』となる」と試算する。
この崖を避けるため、何らかの支援策がまとまるとの見方は多いものの、協議は難航が見込まれる。追加の経済支援策全体で野党民主党の議会指導部が3兆ドル程度を求めるのに対し、財政規律を重んじる共和党は1兆ドル程度を考えているとされる。米政権と議会共和党が重視する政策にも開きがある。アマースト・ピアポントのスティーブン・スタンレー氏は「米上院が夏の長期の休会に入る8月7日までの合意を目指すのだろうが、失業給付金積み増しが一時中断するのは確実」とみる。米国の経済支援策を期待したドル買いは盛り上がりにくい。
スコシア・キャピタルのショーン・オズボーン氏は「経済成長と国債利回りについて、米国と米国外の差がそれぞれ縮小するとの見通しや、それに伴う米国外の株式市場への投資資金の流出などが今後はドルの重荷となる」と話す。ドル指数は目先1%程度下げ、今後数カ月程度では4~5%下落すると予想する。ドルの先安感は強まるばかりのようだ。(NQNニューヨーク 川内資子)