新型コロナウイルスが企業のデジタル変革を加速させる中で、企業のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の利用が加速している。
■SaaSビジネス
SaaSとはクラウド経由でソフトウエアを提供するビジネスモデルだ。買い切りのパッケージソフトの利用に比べて、初期コストが掛からず利用期間や件数に応じた「サブスクリプション(継続課金)」による料金の支払いが一般的だ。
米国などに比べて、日本の大企業は中小企業よりもSaaSの導入が遅れてきた。しかしアフターコロナ、ウィズコロナの世界ではテレワークの広がりや仕事のデジタル化、コストの見直しなどの動きがSaaSの導入を後押ししている。スマートフォンの普及や端末性能の向上により、ネットフリックスやアマゾンプライムなど個人向けのサービスはほとんどが広義のSaaSに置き換わっていると言える。
SaaSビジネスは売り切りのパッケージソフトと違い、ユーザーはクラウド経由でいつでも最新バージョンのソフトウエアを利用することができる。ユーザー側のサービスの切り替えコストがパッケージソフトに比べて低いのもメリットだ。
途中解約が自由で切り替えコストが低いため、サービスを提供する企業側は顧客満足度を高めて解約率の低下が1つの目標となる。ゆえにユーザーに最適なサービス開発を日々継続しなければならない。顧客とデータを共有出来るクラウドベースのサービスであることがソフトの最適化に有利に働く。
結果としてユーザーの満足度が低いサービスは淘汰され、顧客満足度の高いサービスが生き残る。顧客に対して最適なサービスを提供しているSaaS企業がさらに成長を続ける残存者利益の構図になることもわかる。
■マネーフォワード、フィックスターズ、カオナビに注目
株式市場ではSaaS関連銘柄の強さが際立っている。関連銘柄の平均75日騰落率※は53.4%で同期間のTOPIXの騰落率9.63%を大幅に上回った。
※7日17日終値時点での75営業日前からの騰落率
SaaS関連銘柄は成長率の高い企業も多い。さらに売り切りのビジネスモデルに比べて、月額課金モデルのため成長期以降はキャッシュフローが安定しやすく、PER(株価収益率)は高くなりがちだ。このため売上高の成長率や解約率、1契約あたり平均売上高(ARPU)などを総合的に評価するようにしたい。
直近では15日に決算を発表したマネーフォワード(3994)の成長が目を引いた。同社は企業向け会計システムや家計簿アプリケーションなどを手掛けている。15日大引け後に2019年12月~20年5月期(第2四半期)の連結売上高が前年同期比で7割の増収で過去最高になったと発表し、16日には上場来高値を更新した。
個人向け家計簿アプリケーションは課金ユーザーが順調に増加し、25万人を突破。プレミアム課金収入は前年同期比26%増となった。
法人向けのクラウド会計のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)によるストック収入が前年同期比で76%増と高成長だった。法人向けSaaS比較・検索サイト「BOXIL」も好調だった。
決算後のオンライン説明会でアナリストやマスコミからは、他社のSaaS事業ではコロナ禍で中小企業の新規獲得が伸びない例もあるが、どのように成長したのか?などの質問が出た。市場でも成長への期待と関心は高いようだ。金坂直哉取締役兼最高財務責任者(CFO)は、会計事務所や監査法人との連携でクラウド会計サービスなどの利用が増えてきていると説明。コロナ禍でも中小企業から大企業まで幅広い企業でSaaSの導入比率が非常に高まったとして、むしろ環境は追い風だと強調した。
ソフトウエアの高速化などを手掛けるフィックスターズ(3687)は新規事業としてSaaSへの投資を続けている。
同社はプログラムの並列処理による高速化に強みを持っている。NAND型フラッシュメモリ向けファームウェア開発、および自動運転関連のソフトウエア開発を中心に安定成長が続いている。
新規のSaaS事業としてAI(人工知能)によるソフトウエア開発のプロジェクトマネージシステム、自動運転やFA(工場自動化)など、様々な分野で利用拡大が見込まれるエッジビジョンのAI開発プラットフォームなどの開発を進めている。
社員情報の一元管理サービスを クラウド上で提供するカオナビ(4435)も積極的な人材採用などによりまだ赤字ではあるが着実な成長を続けている。
同社の「カオナビ」は、顔写真を並べて直感的にわかりやすい社員の人材情報検索システムで利用企業数が着実に伸びている。経理などに比べてこれまで企業の人事や経歴情報のデジタル化が進んでいなかったことも背景となっており、トヨタ自動車の先進技術カンパニーで導入されるなど大企業での採用も今後進むとみられる。(QUICK Market Eyes 阿部哲太郎)
<金融用語>
PERとは
Price Earnings Ratioの略称で和訳は株価収益率。株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される尺度である。時価総額÷純利益、もしくは、株価÷一株当たり利益(EPS)で算出される。例えば、株価が500円で、一株当たり利益が50円ならば、PERは10倍である。 一般的には、市場平均との比較や、その会社の過去のレンジとの比較で割高・割安を判断する場合が多い。どのくらいのPERが適当かについての基準はなく、国際比較をする場合には、マクロ的な金利水準は基より、各国の税制、企業会計の慣行などを考慮する必要がある。 なお、一株当たり利益(EPS)は純利益(単独決算は税引き利益)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。