証券アナリスト=三浦毅司(日本知財総合研究所)
米国のEVメーカーテスラの時価総額が話題だ。7月28日時点で2855億ドルと日本円にして約30兆円、トヨタ自動車を抜いて自動車メーカーとして世界1位である。
この時価総額は多分に将来の成長を織り込んだものと言われる。テスラの2019年の営業収入は246億ドルとトヨタの10分の1以下に過ぎないが、過去3年間の平均増収率は52%と急成長を続けている。テスラがなぜ、ここまで評価されるようになったのか、そしてこのまま高評価を維持できるのか検証した。
高単価と高利益が時価総額の前提
テスラが上場する米ナスダック市場全体でみると、来期ベースの予想PER(株価収益率)は7月28日時点で約30倍だ。この平均PERをあてはめると、時価総額約3000億ドルのテスラは100億ドル程度の利益を生む企業だと市場がみなしていると言える。
2019年までのテスラは先行投資が続き赤字だったが、今後は売り上げの増加により損益分岐点を超え、黒字化が見込まれる。問題はいつ利益が100億ドルに達するかだ。
2019年に販売台数が世界1位、2位だった独フォルクスワーゲン(VW)とトヨタは、新車1台あたりの売上高が300万円程度、純利益が25万円程度とほぼ同じだ。一方、テスラの1台あたり売上高は約700万円でVWやトヨタの2倍以上である。
■VW(2019年販売台数世界1位)やトヨタ(2位)とテスラの収益構造の違い
出所:各社公表資料に基づき日本知財総合研究所作成
仮にテスラの1台あたり売上高がこのまま高止まりし、1台あたり利益もVWやトヨタの2倍強となるとすれば、利益100億ドルに必要な販売台数は1700万台、必要な売り上げは1000億ドルとなる。この数字は必ずしも不可能ではない。このまま年率52%の売上高の伸びが続けば、3年後の2023年には売上高は1000億ドルを超える。
問題は1台あたりの売上高や利益の確保だ。一般的に自動車メーカーは販売台数を増やすために最低価格帯を引き下げる。すると、1台あたり利益も減少する。仮にテスラの1台あたりの売上高、利益がVW、トヨタ並みに低下すれば、利益100憶ドルに必要な販売台数4000万台、売上高1000億ドル到達は5年後の2025年にまでずれ込む。
■テスラ業績の楽観シナリオと悲観シナリオ
出所:日本知財総合研究所
1台あたりの売上高が低下すれば、さらに到達時期は後ずれする。販売台数を増やしながらどうやって売上高や利益を維持していくか、経営手腕が問われる。
知財価値は、ほぼすべてがブランド
テスラのビジネス戦略でユニークなのが、自社の電気自動車(EV)関連特許361件(7月20日現在)をすべて市場の拡大のために無償開放していることだ。このため、時価総額を構成する知財価値のうち、特許の価値はほぼ0とみていい。
テスラのEV関連特許はそもそもトヨタなどの上位企業と比べ少なく、一つ一つの特許の価値も見劣りする。すなわちテスラは技術開発力を元にした高いマージンを維持していくことは難しいと思われる。
■世界のEV関連特許の出願件数ランキング(LG CHEMICALまでがTOP5)
出所:日本知財総合研究所作成
つまりテスラの知財価値は特許価値ではなくブランド価値である。この結果は、テスラの巨大な時価総額が不安定であることを示している。
特許など明確に権利化されたものならばEV市場の拡大につれて価値が増大し、テスラの時価総額の維持・拡大に貢献する。ブランド価値は傷つきやすく、再生には多大な時間とコストがかかる。多額の広告宣伝費を使ってブランド価値を高めてきた自動車業界にあって、テスラのブランドはまだまだ不安定だ。
テスラは既存のしがらみで出遅れる大手メーカーをしり目に、開発を外部(サプライヤー)にまかせて一気に市場シェアを取りに行った。だが、世の中が大きくEVに舵を切った今、大手メーカーが技術力を裏付けにEV事業のテコ入れを急いでいる。テスラと既存メーカーのデットヒートが続きそうだ。(2020年7月30日)
日本知財総合研究所 (三浦毅司 [email protected] 電話080-1335-9189)
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