外国為替市場で円の存在感が高まっている。主要通貨に対するドルの総合的な価値を表すドル指数は欧州単一通貨ユーロとの相関性が低下する一方、円との結びつきが強くなった。一時はマネーが集中したユーロだが少しずつ上値の重さが目立ち、ドル売りの受け皿としての比重が円に移りつつある。1ドル=104円台でいったん上値のメドを確認した円相場だが、先高観は消えていない。
■円の存在感が増している
「ドル・円とドル指数の相関関係が強固なものになり始めているようだ」(シンガポール大手銀行のUOB)。外国為替市場では最近、こんな見方が出ている。
ドル指数と「ユーロ・ドル」、「ドル・円」の相関係数をみてみよう。相関係数は1~マイナス1の値をとり、1ならば2つの資産が同じ変化率となり、マイナス1は真逆の関係。ゼロに近いほど関連性は薄くなる。ドル・円とドル指数の相関係数は7月下旬から急速に高まり、3日時点で0.66。ユーロ・ドル(マイナス0.65)を上回り始めた。
ドル指数を構成するウエートの6割近くは対ユーロ。円は1割ほどにすぎないが、ドル・円の相関係数の高まりは円の存在感が増している状況を映す。「ここ数カ月ずっと同じだったドルと円の値動きにかい離が出始めたため」と国内銀行の為替担当者は読む。
■伸びしろが大きい円
円もドルも買われた春ごろは相関係数が低下し続けた。ここにきて関係性が高くなったのは、ドルと円を同じ「低リスク通貨」に並べる市場参加者が少なくなってきたためといえる。
新型コロナの感染拡大や米中対立など米国起点のリスク要因が多く、「米国外」で低リスク資産を探す動きが強まっている。米連邦準備理事会(FRB)が9月に一段の金融緩和策を打ち出すとの思惑もあり、ドルの下落圧力は根強い。
こうした資金の受け皿として、これまでは米国よりも景気回復期待の高い欧州のユーロが選好されていた。ただ、足元では投機マネーの買い持ち高が膨らみ、ユーロの上値は重い。「低リスク資産」の代表格である金(ゴールド)も上昇が一服しつつある。投機勢の買い持ち高が少なく、伸びしろが大きい円がターゲットにされてもおかしくはない。
もちろん、売買の中心はなおユーロ・ドルで、「円への関心は高くない」(ソシエテ・ジェネラル銀行為替資金営業部長の鈴木恭輔氏)という市場参加者も多い。ただ、ドル売りの受け皿が少なくなっていることも確かだ。主要通貨に対するドル買いの枠が外れてしまっただけに、きっかけ次第で円の上昇が加速する可能性もある。〔日経QUICKニュース(NQN)松下隆介〕
<金融用語>
投機とは
短期的なキャピタルゲインの取得を目的とした投資。思惑に基づいた売買なども含む。 ただしこの概念はあくまでも抽象的なものであり、実際には、「投資」との区別を、明確にすることができないことが多い。