自動車業界で時価総額ナンバー1に上り詰めた米電気自動車大手テスラのESG(環境・社会・企業統治)評価はどうなのだろうか。人工知能(AI)を活用し、毎日、全世界約7300社の上場企業についてESG評価を行っているアラベスクS-Rayのスコアから分析してみたい。
テスラは7月1日、トヨタ自動車の時価総額(ドルベース)を初めて上回ったが、それ以降も株価は上昇を続けた。7月末時点のテスラの時価総額は2666億ドル(28.7兆円)とトヨタ(1918億ドル)を700億ドル超上回っている。
毎年1000万台規模の自動車を生産するトヨタ(含むダイハツ工業、日野自動車)に対し、昨年、約36万5000台を生産しただけのテスラがなぜ、時価総額ベースで世界ナンバー1の自動車会社になれたのであろうか。
企業財務面または経営戦略的な側面での考察は多くの専門家が行っているので、ここではESGの側面から考察してみたい。
■テスラのESGスコア、業界平均を下回る48.5
7月末時点の自動車業界(Motor Vehicle)に属する企業の時価総額上位5社は表に示す通りで、7月末時点の時価総額と年初来の株価騰落率(ドルベース)、そしてアラベスクS-RayのESGスコアを掲載している。
このうち、ESGスコアで5社を比較すると、テスラは48.5と時価総額上位5社の中では伊高級車メーカー、フェラーリの60.9、トヨタの55.6に次いで3番手に位置する。
7月末時点の自動車業界全体のESGスコアの平均は53.6で、テスラのESGスコアは業界平均を下回る水準にある。
■「G」に優れるテスラ、「E」と「S」は業界平均以下
ESGスコアについて、もう少し詳細に見てみよう。ESGは「環境(E)」「社会(S)」「企業統治(G)」のサブスコアで構成されている。テスラを3つのサブスコアでみると、環境が54.1で最も高く、企業統治が52.2、そして社会が39.4と最も低くなっている。
時価総額上位5社の中では、テスラは環境および社会のスコアが最低水準である一方、企業統治は2番目に高い。
自動車業界の平均スコアは、環境が66.4、社会が57.9、企業統治は42.4となっており、テスラのサブスコアは環境および社会が業界平均を下回る半面、企業統治は10ポイントほど上回っている。
このようなことから、テスラはESG要因では環境と社会は優れないが、企業統治は優れているということができる。同社創業者で最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏個人のインパクトが大きいため一見、企業統治に不安を抱きがちだが、資本政策や収益のクオリティー、透明性が相対的に優れている。
■ESG評価にバラつき目立つテスラ、全体の底上げ必要
しかし、企業統治のスコアが業界平均を上回っているだけで、ESG要因でテスラの躍進を評価することはできない。
さらにテスラのESGスコアの詳細項目を分析していくと、テスラのスコアが突出して高い項目があった。それは環境に含まれる「環境ソリューション」という項目である。クリーン技術の開発や環境負荷の低い製品、サービスの提供、騒音削減等が評価対象となる「環境ソリューション」のスコアは88.3に達する。この水準は時価総額上位5社の中では断トツに高く、トヨタの同スコアを20ポイントも上回る。業界平均の73.0も大きく上回る水準である。
テスラのESGスコアの詳細項目をみていくと、スコアの「高・低」がはっきりしているのが特徴である。「環境ソリューション」のように非常に高いスコアもあれば、同じ環境の項目でも環境保護などが評価対象に含まれる「環境スチュワードシップ」のスコアは非常に低い。また、社会では業界平均よりも低い項目が多い。
一方、トヨタやフォルクスワーゲン(VW)など、年間1000万台規模の自動車を生産・販売している企業のESGの詳細項目スコアはテスラのようなバラつきは見られない。
テスラが持続可能な形で生産台数を増やしていくには、「環境ソリューション」といった自社の得意分野だけでなく、ESG全体の底上げが必要であろう。専門家の間ではテスラの株価は割高であると分析する声も少なくない。同社の企業価値が持続的に拡大していくのか、今後の同社のESGに対する取り組みは注目に値する。(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)
雨宮 寛(あめみや・ひろし)