三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ債券ストラテジスト 石井純氏
自民党総裁選の展開を見るとポスト安倍首相は、女房役だった菅義偉官房長官となる可能性が高まってきた感がある。その場合、新型コロナウイルス対策が最優先課題という情勢下、新政権のマクロ経済政策も当分、安倍路線が継承されると見込まれる。それは、マーケットにとって安心材料である。債券市場の最大の関心事である金融政策についても、安倍首相と二人三脚を組んできた黒田日銀総裁による「大胆な金融緩和」路線が、修正、変更される可能性はないと予想される。
■消えた「連鎖降板」リスク
この点に関し、債券市場の一部では、黒田日銀総裁の第2期スタート時より、不穏な憶測がくすぶってきていた。それは、安倍首相が任期満了や持病再発で退任する際には、黒田日銀総裁も高齢など健康問題を理由に、任期途中で“連鎖降板”することもあり得る、との見方だった。しかし、安倍路線が継承されるなら、そうした必要性は生じない。そもそも、市場を不測の混乱に陥れ、悪影響を各方面へ広げてしまうので、そうした可能性はほとんど見込まれない。債券市場の懸念は杞憂にとどまり、徐々に安心感が醸成されるだろう。
そうした日銀YCC継続への信認を背景に、10年債利回りの0.050%近辺には買い安心感がある。黒田総裁が最近、「イールドカーブ全体の低位安定が最も重要」「現状は適正な形状が維持されている」との判断を示しているからだ。そこで、過去4年間のYCC実績によって「低位安定」や「適正な形状」を捉えると、10年債利回りについては、平均0.00%、1標準偏差0.09%、つまり「ゼロ%±0.1%」であることがわかる。0.05%以上は誘導レンジの上限に近いので、押し目買いゾーンと言える。
■ギリギリの安定
一方、短中期金利は現状、増発や外国人の買い減少などの影響で日銀誘導レンジの上限に張り付いているが、ぎりぎり低位安定の範囲内に位置しているとも言える。2年債利回りの誘導レンジは、10年債と同じ考え方に基づけば、平均が-0.175%、標準偏差が0.05%なので、「-0.23~-0.12%」と推定される。5年債利回りは平均が-0.15%、標準偏差が0.07%なので、「-0.21~-0.075%」が見込まれる。日銀は8月28日に公表した9月の長期国債・月間買い入れ予定で、短中期債の「1回当たりオファー金額」を増やさなかったが、各利回りが当該レンジから上振れする場面では、機動的に増額オファーする可能性がありそうだ。急上昇の場合には指値オペ実施の可能性もあり得る。一方、マイナス金利の深堀りは、リバーサルレート懸念がくすぶる中、あり得ない選択肢だと思われる。ちなみに、外国人の買い減少は、ドル円ベーシススワップ取引に伴う上乗せ金利の低下が主因と見込まれる。(QUICK Market Eyes 丹下 智博)