新興国債券の見直し機運が高まっている。米国の上場投資信託(ETF)市場では、米国債を組み込んだETFから資金が流出する一方、新興国債券を投資対象とするETFへの流入が続く。主要先進国の債券利回りが低水準で推移し、高い運用利回りを求める動きが広がり始めた。「イールドハントはまだ初期段階」――。市場では、こんな強気の見方も少しずつ増えている。
■新興国通貨にヘッジファンド・機関投資家マネー
QUICK・ファクトセットによると、8月31日~9月4日の週に新興国債券を投資対象とするETFは6億ドルの資金流入超だった。流入超は10週連続。9週連続の流出超となった米国債タイプとは対照的だ。新興国債券は、年初来では3億ドル強の流出超だが、一時30億ドルまで流出超額が膨らんだ4月以降は資金流入が優勢となっている。
足元でもこうした動きは続いているようだ。メキシコやサウジアラビア、インドネシアなどの債券を米ドル建てで運用する「バンガード・エマージング・マーケッツ・ガバメント・ボンド ETF」は8日までに4営業日連続の資金流入超だった。同じような仕組みの「iシェアーズ JPモルガン米ドル建てエマージング・マーケット債券 ETF」も資金流入が続いている。
※バンガード・エマージング・マーケッツ・ガバメント・ボンド ETFの資金流出入(右軸)と運用資産残高(AUM、左軸)、QUICK FactSet Workstationより
※iシェアーズ JPモルガン米ドル建てエマージング・マーケット債券 ETFの資金流出入(右軸)と運用資産残高(AUM、左軸)、QUICK FactSet Workstationより
米シティグループによると外国為替市場では東欧、中東、アフリカといった地域やラテンアメリカの通貨にヘッジファンドや機関投資家の資金が向かっているという。新興国を見直す動きは信用リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場にも表れ、IHSマークイットが算出する新興国のCDSスプレッド(保証料率)は2日に約1年ぶりの水準に低下した。
■利回りを探せ
世界的な金融緩和で主要先進国の債券利回りが低下している。米連邦準備理事会(FRB)の量的金融緩和策もしばらく続きそうだ。米モルガン・スタンレーはFRBのバランスシートが2021年末までに最大で10兆ドル強と、足元の水準と比べ1.4倍ほどの規模まで拡大するとみる。世界的な低金利観測の長期化を背景に、運用難にあえぐ投資家が新興国に資金を振り向けている。
「国によっては通貨の反発と高利回りの両方で運用益が見込める。向こう6カ月ほどは新興国が投資テーマの一つになりそうで、いまはまだ初期段階だ」。8月後半から新興国の国債を強気にみるUBSウェルス・マネジメントの日本地域最高投資責任者、青木大樹氏はこう指摘する。3日付でポーランド国債のリポートを書いた野村証券の岸田英樹氏は「高格付け社債の利回りが一段と低下し投資妙味が薄れれば、国内勢によるほかの新興国債への投資が増える可能性はある」とみる。
新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立、英国の欧州連合(EU)離脱問題など、目先はリスク回避に傾きがちなイベントが目白押しだ。「リスク回避の動きが強まれば、再び新興国から資金が流出する」(あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジスト)との見方はなお根強い。新興国への資金シフトの持続性には疑問も残るが、利回り確保を迫られる投資家のイールドハントは続きそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN) 松下隆介〕