通常とは違う米大統領選の投票日が違づくにつれ徐々に混沌とし始めた。選挙後の米国民はどうなるのか。バイデン氏が勝利した場合は貿易政策が転換するのか。これらの疑問に英アバディーン・スタンダード・インベストメンツでチーフ・エコノミストのジェレミー・ローソン氏とポリティカル・エコノミストのステファニー・ケリー氏が見解を示している。
Q:大統領選で誰が勝利しても国民は不満を抱くと考えるか
A:米国の極端な政治的二極化を勘案すると、選挙結果がどうであれ、かなりの有権者が不満を持つと見込まれる。選挙が接戦であった場合、不満の度合いはなおのこと高くなる。選挙人団が共和党寄りであることからクリントン氏の時のように、バイデン候補が世論調査では高い支持率を誇りながらも選挙では敗戦する可能性が高まる中、民主党側は特に黒人有権者の投票の足かせとなる投票要件について懸念している。共和党側では、郵便投票の利用が増えれば大規模な不正につながり、自らの勝率に影響するとの見方をトランプ大統領がすでに示している。
こうした状況下、選挙当日の夜になって、投票所投票ではトランプ氏がリードしていながらも、その後に民主派が大勢を占める郵便投票を計数するとトランプ氏が敗戦することもありえる。そのため、圧倒的勝利とならない限り、どちらが勝っても敗者側の投票者は不正を主張する。これは中期的に効果的且つ持続可能な政策決定を危うくする可能性がある。
Q:バイデン候補が勝利した場合、トランプ大統領による世界貿易政策の一部は覆るか。またその場合、世界における米国のリーダーシップに影響するか
A:バイデン候補は、貿易政策においては、米欧間の連携強化など、より戦略的且つ多国的なアプローチを打ち出してくるものと我々は予想している。米欧間のより建設的な連携として、たとえば経済協力開発機構(OECD)によるデジタル課税への取り組みなどが挙げられる。中国に関しては、米国側の政治的背景を勘案すると、バイデン氏が対中貿易障壁を迅速に緩和する可能性は低く、かわりに国際機関との関係や対話の戦略的見直しを行う可能性が高いと見ている。
ここ数年の非関税障壁の厳格化(IT規制や投資規制などの厳格化)は、トランプ大統領が先導したものではなく、大半が超党派による取り組みだった。実際、民主党は中国政府の透明性や倫理について懐疑的な見方をしているため、ITや投資分野については、引き続き緩やかな深化を予想している。ただし、バイデン候補は多国間での結束強化により中国に影響を及ぼす多国的アプローチを図ると思われるため、貿易協議に関する発表は、これまでよりは一貫性のある内容となることを予想している。そのため、ヘッドラインリスクは低減するだろう。(QUICK Market Eyes 大野弘貴)
<金融用語>
経済協力開発機構(OECD)とは
世界中の経済、社会福祉の向上を促進するための活動を行う国際機関で日本での表記は「経済協力開発機構」。その前身は、第二次世界大戦後の欧州復興支援策(マーシャル・プラン)を推進するための機関として1948年にパリで設立されたOEEC(欧州経済協力機構)。その後、欧州復興に伴うOEECの解組を経て1961年にOECDが設立。欧州を中心に日米など先進34カ国が加盟しており、加盟国間の情報交換を通じて、各国の経済成長、貿易自由化の拡大、途上国の開発援助などを目的とする。 【正式名称】Organisation for Economic Co-operation and Development