【QUICK Market Eyes 阿部哲太郎】本日未明、米アップルのイベントで新型のiPhone12が発表された。ラインナップは4機種で標準モデルの「12」、画面が小さい「12 mini」からカメラ性能が強化され画面の大きい高級機の「12 Pro」、「12 Pro Max」となる。
■3億5000万台が買い替えのチャンス
最も低価格のiPhone12 miniの価格は699ドル(7万4800円~税別)に設定された。先行されて発売されているグーグルやサムスンの5G(次世代通信規格)にも対抗できる価格設定となる。これまでのiPhoneの新型機は比較的画面の大きいモデルが多かったこともあり、小型サイズの旧モデルを使っていたユーザーからの乗り換えも期待できそうだ。ウェドブッシュは11日付のリポートで、「全世界に9億5000万台あるiPhoneのうち3億5000万台が現在、買い替えのチャンスがあるとみられる」とした。
アップルユーザーの筆者も割引や下取りの条件次第ではあるものの、5Gを試したく現在のXs Maxから12 Pro MaXへの買い替えを考えている。以下に発表されたiPhone12の各モデルの概要を表にした。iPhone12のポイントは「5G対応」「有機EL」「カメラ機能のグレードアップ」とみられる。
■全機種5G対応
iPhone12は全モデルが5G対応となる。5Gの主な電波帯は、電波速度がやや遅いが広範囲に届く6GHz以下の帯域の「Subー6(サブ6)」と、30GHz以下のより高速大容量通信が可能な「ミリ波」に分けられる。
5Gは主に高速大容量・同時多接続・低遅延の3つが特徴とされるが、現時点では、サブ6や4GLTEを組み合わせた高速大容量通信がメインとなる。その後、数年かけて基地局などの整備を行い、ミリ波通信により低遅延・同時多接続「フル規格」の5Gの普及が進むと目される。今回の発表では、日本版はミリ波に対応しておらずサブ6のみの対応のようだ。ただ、当面は日本ではサブ6メインの5G展開が予想されるため使用に支障を来すことはなさそうだ。
「ミリ波」の普及局面では、通信モジュールなどを手がける電子部品メーカーの注目度が増す。村田製作所(6981)や太陽誘電(6976)は通信用の電波フィルターや通信モジュールは高付加価値品の需要増が期待される。またミリ波の電波減衰をカバーするための低損失の材料の需要も高まる。村田製は、折り曲げて加工できる低損失の樹脂多層基盤「メトロサーク」への投資を数年来続けており、今後の伸びが期待される。
■全機種に有機ELパネル搭載
iPhone12では、すべての機種がディスプレイに有機ELを採用する。iPhone11では3モデルのうち標準モデルのiPhone11が液晶ディスプレイだった。有機ELは液晶に比べてディスプレイの応答速度が早く、動画やゲームなどなめらかな画面表示が出来るためスマートフォン各社は有機ELモデルのラインナップを増やしている。米調査会社DSCCによると20年のスマホ向け有機ELパネルの出荷枚数は5億100万枚となり、前年比7.5%増える見込み。アップル向けが7割増の約1億枚とけん引する。有機ELパネルはサムスンディスプレー(SDC)とLGディスプレー(LGD)が供給する見込み。有機EL関連銘柄としてディスプレイ製造・検査装置を手がけるブイ・テクノロジー(7717)の株価は、パネルメーカーの投資再開への期待から8月以降堅調な値動きとなっている。
工業用の貴金属製造を手掛けるフルヤ金属(7826、ジャスダック)も下値を切り上げる展開となっている。有機ELパネルは自ら発光する赤緑青の有機化合物を使って映像を表示する。同社は発光材料の一次材料となる高純度イリジウムの化合物を手掛けている。
※iPhoneの部品関連株の推移(2019年末を100として指数化)
■カメラ機能のグレードアップ
カメラ機能もグレードアップする。高級機の「Pro」のカメラはトリプルレンズを採用し、さらに3次元レーダーセンサーの「 LiDAR(ライダー)」が搭載される。LiDARセンサーを使って、光が物体に反射して戻ってくる間の時間を計測することにより、距離の測定や周辺空間の把握がこれまでより高精度となる。写真や動画の画質も向上するほか、カメラを使ったAR(拡張現実)のアプリケーションもよりリアルな体験が可能になりそうだ。LiDARセンサーに内蔵されるCMOSイメージセンサーはソニー(6758)製が用いられるとみられる。