【日経QUICKニュース(NQN) 矢内純一】9日の東京株式市場で、エーザイ(4523)株が逆行安となった。米バイオジェンと共同開発するアルツハイマー型認知症治療薬の実用化期待がしぼんだためだ。1銘柄で日経平均株価を約87円押し下げ、米大統領選後の株高に水を差した。ただ、米食品医薬品局(FDA)によって承認が否定された訳ではない。一部の投資家の望みは消えていない。
9日のエーザイ株は一時前週末に比べ2682円(26%)安の7558円を付けた。FDAが4日に公表した資料でアルツハイマー型認知症治療薬「アデュカヌマブ」に前向きな評価をし、承認に向けた期待が高まっていたところ、FDAの諮問委員会が有効性に対して否定的な見解を示した。このため売りが膨らんだ。
■剥がれる期待
FDAは2021年3月までに、最終的な可否を判断する予定だ。SMBC日興証券の田中智大アナリストらは9日のリポートで「諮問委員会の見解と、FDAの判断は必ずしも相関しない」と指摘した。25%の成功確率を前提に目標株価を8000円におくが、「諮問委員会でのネガティブな結果を鑑みれば、承認に対する期待がはがれていく可能性はあるだろう」とした。
野村証券の甲谷宗也リサーチアナリストは8日付のリポートで、「アデュカヌマブ」の成功確率を90%から50%に引き下げた。過去に諮問委員会が否決しても承認された場合は3対7の否決で、「今回は0対10とかなり不利であるため承認の可能性は低くなった」とした。
■押し目も入る
今回の諮問委員会の判断が株価を下押ししたが、可能性はゼロではない。SBI証券がまとめた同証券経由の売買動向では、前引け時点で20億円の買い越し。市場参加者が売り一辺倒ではないことがわかる。
あるネット証券の情報担当者は「今回は失望で売られたが、また何かの拍子で上昇する可能性が完全に消えてはない」と話す。振り返れば、エーザイ株は昨年12月に「アデュカヌマブ」の臨床試験データ公表で急騰。4月には承認申請の遅れで急落し、7月に承認申請を受けて急騰と、鉄火場で踊っているように上げ下げを繰り返す。
人の行く裏に道あり花の山――。再びエーザイ株に脚光が当たるとすれば、この使い古された格言が思い出されることになるのだろう。