【QUICK Market Eyes 大野 弘貴、片平 正二、池谷 信久】3日に行われた米大統領選挙に関して、バイデン前副大統領が勝利宣言をした一方、トランプ陣営は法廷闘争に持ち込む方針だ。それでも市場は既にバイデン政権の誕生を織り込んでおり、「バイデノミクス」とも称される経済政策へと関心が移っている。どういったシナリオが考えられるのか。市場では早くも政権の「本音」を探り始めている。
■バイデン新政権、『強いドル支持』としながら緩やかなドル安放置か=JPモルガン証
JPモルガン証券は9日付のリポートで為替政策に関して「米国はバイデン次期大統領の下でも、『強いドルを支持する』と言いながら、緩やかなドル下落トレンドを懸念することはなく、放置する可能性が高い」と指摘した。米連邦準備理事会(FRB)の米国債保有が増加していることからドル安による金利上昇リスクが過去より低下しているほか、通貨安によるインフレ率の上昇を懸念する状況にないことが主な理由という。
またリポートでは「当社は引き続き来年にはドル円相場は100円を割り込むと予想しているが、90円台で日本が円売り介入を行う可能性は以下の理由から低いと考えている」とも指摘した。
歴史的にみても、米国の民主党政権と日本の自民党政権は相性があまりよくないとしながら、「そうした中、ドル円での円売り介入は日米両政府の関係が不安定だと実行することが困難。ドル安主導でドル円が下落する時は、リスクオンの環境の中での下落となるため、株価があまり下落しない。日本の当局がドル円の下落を懸念するのは、それが企業収益にネガティブとなって株価が下落するからであり、ドル円だけが下落する場合には懸念する度合いは小さい」とし、単純な為替水準でなく、総合的な判断となる可能性があると指摘。また、日本が米財務省の為替報告書で監視対象国となっていることを踏まえ、「仮に1年間で11兆円以上の円売り介入を行うともう一つの基準である介入額にも引っかかってしまい、為替操作国に認定されてしまう可能性がある」ともみていた。
■バイデン政権では市場を圧迫する可能性のある政策実現性が非常に低い=JPモルガン
また同社はバイデン前副大統領の大統領選での勝利は、上院抜きではあるものの、増税や規制監督の強化など「市場を圧迫する可能性のある政策の一部を実行できる可能性が非常に低いことを示唆している」と指摘し、「同時に、貿易の不確実性は低下し、米ドルは下落する可能性がある」との見方を示した。また、「次の景気刺激策の規模は縮小する可能性が高いものの、共和党も民主党も継続的な景気回復を支持していると見られることを望んでいるため、実施される」と展望した。
これらを踏まえ、米大統領選前、各国株価指数に巨大な地域間格差があり、JPモルガンによると中国が27%上昇した一方、エマージングが25%の下落。また、米国が9%上昇した一方ユーロ圏は12%の下落となっていることから、「ここでも何らかの平均的な逆転が起こりそうだ」と予測した。
■「2016年も最悪のシナリオで株価は上昇した」=中島氏:野村証券
「2016年の大統領選も今回も、事前に言われていた株価にとっての最悪シナリオに終わった。16年はトランプ氏が勝利し、今回は『ねじれ議会』だ。どちらも事前のヘッジが行き過ぎており、その巻き戻しが勝敗が決まった直後に起こったということだろう。特に今回はコロナ対策で市場に資金がジャブジャブになっている。結果がどうであれ、ラリーする環境が出来ていた。株価は大幅高となったが、債券はあまり売られていないことからも、金融相場ということだ。基本的には株と債券は純相関の動きになるのだろう」(野村証券の中島武信氏)