クルマの窓を割って車内を物色。歩道を占領するホームレス。ソーシャルメディアのTikTok(ティックトック)で「San Francisco(サンフランシスコ)」と検索すると、変わり果てた市内の動画ばかりでてくる。「ゴーストタウン」との指摘も。サンフランシスコ警察によると、年初から9月3日までに発生した犯罪3万4294件のうち、自動車泥棒を含めた窃盗関連が9割を超える。パンデミック(疾病の世界的流行)の影響で市中心部の衣料品店H&Mやギャップが閉鎖したが、いまは犯罪増加による閉店。高級デパートのノードストロームやアパレルのバナナ・リパブリックが安全上の理由で閉店を相次いで決めた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、サンフランシスコは「ドゥーム・ループ(破滅へのスパイラル)」に陥ったと伝えた。
カルフォルニア最大都市ロサンゼルスもひどい。娘は昨年、ATMで引き出した現金を奪われた。警察に「5000ドル未満の窃盗は捜査できない」と言われた。バス市長はホームレス対策を最大公約に掲げ当選したが、市内のホームレスは目立って増加。デパートやコンビニエンスストアで「フラッシュ・ロブ(集団窃盗)」が頻繁に発生。最近ではショッピングモールでの日中でのフラッシュ・ロブがニュースになった。貨物列車の積み荷強奪が社会問題化。危険にさらされたスターバックスの数店舗は閉店に追い込まれた。窃盗や強奪の被害は全米の都市でも。一部は組織犯罪とされ、地元警察だけではなく連邦捜査局(FBI)も本格捜査に乗り出した。
全米小売業協会(NRF)によると、小売店における組織犯罪による被害額は2021年に945億ドル(約14兆円)と、前年比で26.5%増加。犯罪数はさらに増えたと指摘される。強奪や万引きの横行は米国の小売大手の業績に影響し始めた。CNBCは、8月と9月に四半期決算を発表する小売企業の多くの在庫が過去最大の縮小を記録したと報じた。単純に在庫が減ったのではなく、犯罪の影響が大きいとしている。
ホームセンター大手のロウズの犯罪による四半期の損失は10億ドル(約1480億円)、ターゲットは2億1950万ドル(約325億円)と推定されるとしている。ダウ工業株30種平均の構成企業でもあるホーム・デポのデッカー最高経営責任者(CEO)は、CNBCのインタビューで「たまにある万引きではなく、窃盗が大問題に発展した」と警告した。ロサンゼルス・タイムズ紙は、窃盗の増加は株主と企業業績に危険だとするアナリストの寄稿文を掲載。小売企業は犯罪被害を情報開示すべきと主張した。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、店内でのショッピングが回復する一方で万引きが増加、商品にロックをかけ、常習犯を追跡するため顔認証ソフトを導入した小売店もあると報じた。窃盗増加ペースが売上高の伸びを上回っているとのアナリストのコメントを引用、窃盗が利益を圧迫しはじめたとしている。フォーチュン誌は、小売最大手ウォルマートの窃盗問題が深刻化し、アトランタ店の店内に警察官の待機所を設置したと伝えた。
2024年大統領選に向けバイデン大統領は「バイデノミクス」の成果を強調した。有権者の反応はさえない。ウォール・ストリート・ジャーナルの最新の世論調査では有権者の57%が経済政策を不支持とした。CNNの調査でバイデノミクスを評価したのは民主党の48%、共和党はわずか2%だった。CNNは、経済指標は堅調なものの、住宅費高騰やガソリン価格上昇でほとんどの米国人は堅調な経済を実感していないと解説した。強奪や窃盗の増加は生活の苦しさが背景との指摘もある。来年の選挙をめぐり候補者の年齢問題が議論されているが、有権者の関心は生活の改善にある。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。