【NQNシンガポール=村田菜々子】東南アジアの大国インドネシアで電子商取引(EC)を巡る主導権争いが激しくなってきた。人口が世界で4番目に多いインドネシアは同2位のインドとともに小売業界などのデジタル化が遅れており、成長余地の大きい「有望市場」。新型コロナウイルス禍を受けてデジタルサービスの成長が加速する中、そのプラットフォームを担う企業を中心に、世界各国の企業や投資家が新たな資金の振り向け先として食指を動かしている。
■群雄割拠のインドネシアEC
インドネシアEC業界で現在、最も注目を集めるのがネット通販大手のトコペディアだ。同社は16日、米グーグルとシンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスから出資を受け入れたと明らかにした。トコペディアには既に日本のソフトバンクグループ(9984)と中国のアリババ集団(@9988/HK)が出資している。筆頭株主のソフトバンクGとそれに続くアリババに比べると、グーグルとテマセクの出資額ははるかに少ないもようだが、一部メディアの報道によると出資額は今後増えていくという。
トコペディア以外では同業ブカラパックが米マイクロソフト(@MSFT/U)と業務提携し、マイクロソフトからの出資を受け入れた。ブカラパックにはアリババ傘下のアント・グループやシンガポール政府系投資会社のGICが出資済みだ。
米国勢を迎え撃つ形になったソフトバンクGの孫正義会長兼社長は、インドネシアに積極投資する意向を見せてきた。今年初めには首都移転計画を検討する審議会の委員に任命された。インドネシア政府とのパイプの太さも生かす。
■政府はEC投資歓迎
インドネシアが置かれた状況は、同じように外資によるEC投資が加速するインドに似ている。伝統的な公設市場や零細な小売業者の比率が高い。これらの業界を保護するための規制も多く、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの整備は進んでいない。国民の約半分が銀行口座を持たず、小口の現金決済が主流となっていた。島しょ部を結ぶ流通システムをどう整えて高速化するかなどの課題は残るものの、市場では「中間層の拡大やデジタル化進行に伴って生み出される利益は大きく、海外企業が投資で競い合う可能性は高い」(インドネシア地場証券のバハナ証券)との声が支配的だ。
東南アジアのEC業界を調査しているマレーシアのアイプライスによると、7~9月期のインドネシアのEC業界ではシンガポール企業のシー(SEA)が手掛ける「ショッピー」がサイト訪問者数では首位。4位にはアリババ傘下のラザダが付ける。その間でしのぎを削るのがトコペディアとブカラパックで、海外勢のサポートによりどこまで勢力を伸ばせるかが焦点だ。
インドネシアのジョコ政権は海外から同国へのデジタル産業向け投資を歓迎する。10月には外資誘致を促す制度一括改正(オムニバス法)も成立した。市場の成長取り込みを狙う外資と、調達資金を通じてアプリ機能の向上などサービス充実を図り、ライバルに食らいつきたいトコペディアとブカラパックを軸とするインドネシアのEC戦国時代はまだ始まったばかりだ。