【QUICK Market Eyes 阿部哲太郎】11月13日の日本経済新聞電子版は、菅首相が表明した2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標に向けた「グリーン投資」促進の政策について報じた。温暖化ガスの削減に繋がる「グリーン投資」への設備投資に優遇税制を適用するもので、「風力発電」「次世代型リチウムイオン電池」「パワー半導体」が候補に上がっている。
■成長見込まれるパワー半導体
パワー半導体は、電圧や周波数を変えたり、直流を交流に変えたり、電流を安定させる役割を担っている。単品の部品であるダイオードやトランジスタ、電源IC(集積回路)などがこれにあたる。エアコンなどでおなじみの電流を制御してモーターの回転数などをコントロールするインバーターには、パワー半導体が重要な役割を担っている。インバーターは、エアコンだけでなく家電、鉄道、電気自動車(EV)など電動の機械や製品にはモーターとセットで使われている。
矢野経済研究所が20年7月に発表した予測によると2020年のパワー半導体の市場規模は、新型コロナウイルスの影響で自動車市場などが落ち込み、前年比9.0%減の約169億ドル(約1.7兆円)が見込まれるものの、EVや5G(次世代通信規格)、太陽光・風力発電などの需要の高まりで、その後は増加基調へ転じることが予想される。19年から25年までの年平均成長率(CAGR)は4.6%を見込み、25年のパワー半導体世界市場規模は約243億(2.5兆円)に到達するとの見方だ。
独半導体大手のインフィニオンテクノロジーズの決算資料によると、2019年のパワー半導体の世界シェアは、1位がインフィニオンで19.0%、2位が米半導体のオン・セミコンダクターが8.4%、3位がスイスSTマイクロが5.8%と海外勢が上位を占める。次いで4位に三菱電機(6503)で5.5%、5位に東芝(6502)が4.5%、7位に富士電機(6504)が3.7%、8位にルネサスエレクトロニクス(6723)が2.8%、9位にローム(6963)が2.4%と国内勢も多くランクインしている。パワー半導体は、メモリーやロジックなどのデジタル半導体に比べて微細化による性能向上や量産が難しい。そのため、かつては大きな電力を扱うことを得意とする日本の重電大手が高いシェアを持っており、日本のお家芸といわれていたが、成長分野とみた海外勢の台頭もあり、このようなシェア分布となっている。
■炭化ケイ素(SiC)はEV向けがけん引
パワー半導体の材料は現状では、メモリーなどのデジタル半導体と同じシリコンが用いられている。近年では、EVなどの普及に伴い、「SiC(炭化シリコン)」と「GaN(窒化ガリウム)」化合物半導体への注目が高まっている。
SiCは、シリコン (Si) と炭素 (C) で構成される化合物半導体材料だ。縁破壊電界強度がシリコンと比べ約10倍高いことから600V~数千Vの高電圧にも耐えることが出来る。電力変換効率が高いため電力損失はシリコンの半分以下となることから省エネ性能が高く、小型化出来るためEV向けインバーターなどでの需要増が期待されている。
耐熱性も高く、高温環境でもシリコンに比べて電力変換効率が落ちにくいためモーターの発する熱によって高温環境となるEVでは、省スペースや冷却ファンなども小型化出来るためEVにはまさにうってつけの材料といえる。
SiCはすでに一部のEVで採用が始まっている。そのほかにも20年7月に営業運転を開始した東海道新幹線の新型車両「N700S」では、高速鉄道としては世界初とのなるSiCを使った制御装置が搭載されており、機器の小型化や省エネ性能を高めている。
SiCについては、重電各社や海外勢も投資をすすめているが、日本勢で特に注力しているのは、ローム(6963)だ。ロームは、材料から製品までを一気通貫で手掛ける「内製」を強みとしている。12年には、世界に先駆けてSiC-MOSFET(電界効果トランジスタ)の量産を開始している。10月29日には、非開示だった21年3月期の連結営業利益が前期比22%減の230億円を見込むと発表した。新型コロナウイルスの影響で今期は減益の見通しだが、アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサス(14社)の185億円を24%上回るなど業績回復への期待は高まっている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、11月13日付のリポートで目標株価を8000円から9500円に引き上げ、「オーバーウエート」の格付けを維持した。リポートではSiCに関しては、ウエハー、デバイス、モジュールの全方位で供給体制を整える方針とし、中でも第4世代MOSFET(電界効果トランジスタ )が次世代のxEV(電動車)向けに評価が上昇しており、引き合いが増加しているとの見方を示した。
■窒化ガリウム(GaN)は5Gの基地局などで活用
窒化ガリウム(GaN)にも期待が高まる。GaNは、窒素(N)とガリウム(Ga)から構成されている。SiCと同様に「高耐圧」「低損失」「高温環境にも耐性」といった特性がある。耐圧性はSiCの方が高く、電力の変換効率やコストはGaNの方が高い。GaNは、LED材料としての適性も高いため、青色LEDの開発、製造に必須の材料となっている。また、低損失性が高いことから5Gで利用が進む高周波の信号向けパワー半導体としても活用が進んでいる。住友電気工業(5802)は5Gの基地局向けパワーアンプなどを手掛けており、GaNの世界シェアではトップとなっている。シリコンウエハー世界首位の信越化学(4063)は、20年からGaNを使った5G向けの半導体ウエハーを開発したと発表している。