【NQN香港 桶本典子】中国で国有企業大手を含む債務不履行(デフォルト)が拡大している。不思議なのは、以前なら企業の救済に乗り出していた地方政府に、積極的な動きがみられないことだ。市場では中国経済が回復基調にあるなか、当局が積年の課題である企業のデレバレッジ(過剰債務の圧縮)を進めようとしているとの見方が出ている。
■デフォルトが過去最高か
「年初から現在(11月中旬)までの中国の社債不履行額が合計で1260億元(約2兆円)に達した」
香港メディアの香港01は先週、こう伝えた。このままのペースだと年末までに2019年の1494億元を上回り、過去最高を更新する可能性が高いという。デフォルト件数は109件と19年の184件に比べ少なく、1件当たりの規模が大きいことがわかる。実際、大手企業、特に国有企業のデフォルトが目立つ。
国有企業で半導体受託生産の紫光集団は11月18日午後、香港市場に上場する社債の取引を停止した。同社は習近平(シー・ジンピン)国家主席の母校・清華大学の系列企業。米中摩擦を受け中国の半導体国産化を担う国策企業だが資金繰りに窮し、15日が償還期限だった13億元規模の私募債がデフォルトとなった。債務不安は上場子会社株に飛び火し、深セン上場の紫光(@000938/SZ)は先行して13日に年初来安値を付けた。
今月は河南省の国有石炭大手である永城煤電控股集団(非上場)も、発行規模10億元の社債が償還できなくなった。10月には遼寧省の国有自動車メーカー、華晨中国汽車控股(@1114/HK)親会社の10億元規模の社債も債務不履行となった。華晨は独BMWと提携し、小型バスなどの事業でトヨタ(東証1部、7203)からも技術供与を受ける地方政府系企業だ。
■なぜ地方政府は動かない?
こうした大手のデフォルトに対し、後ろ盾であるはずの各地方政府からは、これまでのところ目立った救済措置はみられない。その理由として、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは17日付のリポートで、「景気回復に伴い、政府が大手企業のデフォルトを容認する余地が生まれている」ことを指摘している。
収益力や財務に問題を抱える国有企業の改革の一環との見立てで、新型コロナウイルス禍から中国経済がいち早く回復しつつあることが背景となっている。大和証券も17日付のリポートで「地方政府は暗黙の保証を終結させたいのではないか」と指摘した。中国の国有企業債は企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)よりも政府からのサポートの有無で評価されがちだが、こうした風潮を是正する動きだと評価した。
一方、地方政府の沈黙には「不動産市場引き締めによる税収減にコロナ禍が加わり、地方政府は企業救済の余裕がなくなっている」(中国メディアの新浪網)可能性もある。コロナが猛威を振るった今年、デフォルト増加は世界的な傾向だ。国際金融協会(IIF)によると、4~6月期の世界の事業会社の債務不履行額は940億米ドルと、四半期ベースで過去最高だった。中国でも先行投資優先で債務が増えがちななか、米中摩擦やコロナなどで事業環境が悪化し、資金繰りに行き詰まるケースが増えてきていた。
ただ、S&Pグローバルによれば、中国のデフォルト発生率は1%以下にとどまる。米ゴールドマン・サックスも19日付のリポートで「地方政府の債務問題が意識された18年の再来とはみていない」とし、金融システム全体の危機にまで拡大する可能性は低そうだ。中国人民銀行(中央銀行)も16日、中期貸出制度(MLF)としては約5年ぶりの多さとなる8000億元の資金を市場に供給した。金利が上昇している債券市場の沈静化のためとみられ、当局が現状を放置しているわけでもない。
それでも鮮明になりつつあるのは、大手企業といえど地方政府が救済に動くとは限らなくなっていることだ。「国有や政府系の企業だから安心」といった経験則は通じなくなってきている。デフォルトに至るのは結局は「企業の経営状態が最大の要因」(天恒資産管理の周梓霖チーフ・インベストメント・オフィサー)。投資家には、個々の企業の財務体質を見極める姿勢がこれまで以上に求められそうだ。