【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】12月1日の東京株式市場でリクルートホールディングス(6098)が一時、前日比5.6%安の4153円まで売られた。同社の株主8社が持つ政策保有株について最大9472万株(発行済み株式総数の約5.59%)を売り出すと発表したのがきっかけ。30日終値ベースで4167億円に上る規模となり、株式需給の悪化を懸念した売りに押された。一方、中長期的には前向きにみて下がったところで「買い」というスタンスの投資家も少なくないようだ。
■取り巻く環境が改善していく
今回の売り出し規模は2019年8月の売り出し(約3600億円)を上回る可能性がある。そのためリクルートにとって短期的には株価の下落要因になりやすい。
リクルート株は朝方の売り一巡後、1.3%安まで下げ幅を縮小した。それは今回の売り出しと併せて発表した最大700億円、2000万株を上限とした自社株買いだけでなく、リクルートを取り巻く環境が改善していくという見方も支えになっている。
そもそも、政策保有株とは企業が純粋な投資ではなく、取引先との関係維持や買収防衛といった経営戦略上の目的で保有している株式を指す。資産の有効活用や、企業統治(コーポレートガバナンス)の観点から近年では海外投資家を中心に批判されることも少なくなかった。
■改善のための政策保有株解消
リクルートは求人サイト「インディード」を米国を中心に展開しており、海外での知名度が高い。成長のカギとなる海外事業を拡大していくうえで政策保有株の解消は課題のひとつだった。「リクルートの事業の方向性、さらに足元では相場全体が高値圏にあって株式売却益が出やすいので、タイミングとしても不思議ではなかった」(国内証券の日本株担当者)と、すんなり受け止める向きが多い。
同社の政策保有株の割合は9月末時点で24%から、今回の売り出しで20%を切るという。藍沢証券の三井郁男・投資顧問部ファンドマネージャーは「持ち合い解消売りに対する市場からの圧力は今回でピークアウトするだろう」と指摘。「ここから先はインディード事業を含めた事業環境の改善が再び評価されやすくなるだろう」とみていた。世界で開発されている新型コロナウイルスのワクチンが実用化に向けて動き出すなか、足元の相場は経済が正常化に向かうという前提で上昇している。リクルートにとっても、雇用市場の改善期待が意識されやすく、株価にとっては追い風だ。
リクルート株を売却するのは電通グループ(4324)、凸版印刷(7911)、TBSテレビなど事業会社が中心で、売り出し先は海外市場を想定する。昨年は、大日本印刷(7912)がリクルート株の売り出しに伴う売却資金などを利用して自社株買いに動いた経緯もある。歴史的な大相場下における資金活用や株主還元に関し、リクルートは政策保有株の多い他銘柄などに一石を投じたとも言える。
<金融用語>
自社株買いとは
自社株買いとは、自己株式取得の一つで、株式市場から過去に発行した株式を自らの資金を使って直接買い戻すことを指す。株式会社が、株主への利益還元やストックオプション(従業員持ち株制度)等に利用するために行う。 なお、自社株を買い入れて消却することで、利益の絶対額が変わらなくても一株当たりの資産価値やROE(自己資本利益率)が向上する。買い戻した自社株を再放出することなく、自社株買いの効果を利益指標に反映する国内企業が増加していることから、2015年1月から、日経平均株価などを算出する日本経済新聞も「自社株を除いた発行済み株式数ベース」で予想1株利益を算出する方式を採用した。