証券アナリスト=三浦毅司(日本知財総合研究所)
2009年のビットコイン登場以降、仮想通貨やデジタル通貨と呼ばれる暗号資産は急速に認知度を高めてきた。個人の使用から大手銀行や中央銀行に波は広がり、日銀は2021年にも「デジタル円」の実証実験を始める。経済のデジタル化を進める上でカギとなるデジタル通貨はフィンテックで最も注目される分野だ。
デジタル通貨関連の登録特許の出願動向をみると、2006年から急増している。中国で規制が強化され2013年前後に減少に転じたものの、再び増加傾向にある。今後も伸びは続くだろう。
特許出願、国内外で幅広く
デジタル通貨に関する技術開発は開発者の裾野が広い。出願人は1600を超え、出願件数も年間1000件程度と多い。出願者の顔ぶれを見ると国内外の大企業からベンチャーまで幅広い。新顔も次々と加わっている。フィンテックが注目される中で、開発競争がもっとも激しい最先端の分野だ。
■デジタル通貨関連の登録特許出願件数推移
出所:PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
現在、デジタル通貨関連で技術開発の中心となっているいのは、高速で資産残高を同期する高度なセキュリティシステムに守られた通信システムである。もともとビットコインを可能にしたブロックチェーン技術は高度な同期システムで、取引のたびに分散されたノードでの取引データを一斉に更新する。セキュリティの確保や通信障害時の対応など、高度な技術が要求される。
デジタル通貨で変わる決済
現状、資金決済には金融機関が必須であり、最終的に金融機関は中央銀行の口座を通して資金を決済している。もちろん保安上の観点から金融機関の口座は使われ続けるだろうが、デジタル通貨を使った決済では金融機関は残高の管理だけをして、決済自体は当事者間で完結する。こうなると決済に必要となるのは①銀行へのアクセスと②強固なセキュリティに基づく通信システムで、それが銀行である必要は無い。むしろ通信システムに優れる企業が優位に立つ。
■デジタル通貨による決済業務の変化
出所:日本知財総合研究所作成
特許価値ではNTTがトップ
KKスコアを用いた特許価値評価によれば、大手電機メーカーを押さえて首位になったのはNTTだった。以下、大手の電機メーカーが並ぶ。
NTTは既に銀行間の決済ネットワークを確立しているうえ、デジタル通貨に関連する通信システムの特許価値でもトップである。今後、デジタル通貨が主要な決済手段として市民権を得てくれば、決済業務に特化した金融機関を設立して成功する可能性が最も高いのはNTTである。
■デジタル通貨に係る有力な特許の保有企業のランキング
出所:PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
NTTはブロックチェーンを活用した業務支援の取り組みを強化しているが、既存の金融機関に対する遠慮からか、金融事業に大々的には進出していない。ただ、稼ぎ頭の携帯電話事業が政府から値下げを迫られる中、業績には不透明感が漂う。デジタル通貨の決済で標準となるプラットフォームを提供する、などの大義名分で、何らかの形でNTTが決済業務に進出し「デジタル銀行」になる可能性は十分にあるとみている(2020年12月7日)。
日本知財総合研究所 (三浦毅司 [email protected] 電話080-1335-9189)
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