【聞き手はNQN香港 林千夏】2020年は新型コロナウイルスの惨禍が世界を襲ったが、米国株と同様にアジア株は年後半にかけて堅調に推移し、韓国や台湾では過去最高値を付けた。米国では21年にバイ
デン新政権へと移行するが、世界的なコロナの収束や米中対立の先行きは不透明だ。アジアの市場関係者に、21年の株式相場の展望を聞いた。
台湾の犇亜証券のカイ・チェン研究部シニアアナリストは、台湾の加権指数は2021年も過去最高値の更新が続くものの、上昇余地は限られると予想する。半導体需要も堅調だとみるが、世界的な景気回復に遅れが生じれば、過剰在庫の調整を迫られるリスクがあると指摘する。
■指数の押し上げ分、大半がTSMC 過熱感も
――20年は米国市場と同様、台湾株も過去最高値を更新して加権指数は初の1万4000台に乗せました。
「加権指数は12月中旬時点で年初来で約18%上昇した。その3分の2近くは台湾積体電路製造(TSMC)の1銘柄だけで押し上げている。世界的な金融緩和を背景に台湾株の売買代金は今年すでに46兆台湾ドルと、1997年の37兆台湾ドルを上回り過去最多となった」
――21年はどう展望しますか。
「低金利の環境は変わらず、米追加経済対策、新型コロナウイルスの感染抑制を支えに、加権指数は1万5000台に乗せる可能性が高い。ただ(東証1部に相当する)メーンボードのPBR(株価純資産倍率)は2.1倍と、約10年ぶりの高水準となっている。加権指数は5年移動平均との乖離(かいり)率が36%だ」
「乖離率が20%を超えると調整局面に入るとの経験則からすれば、現在の台湾株は上がりすぎと言える。調整を誘発する要因としては、コロナワクチンの実用化が想定ほど進まないことや、ネット企業への規制、半導体業界の在庫調整などが考えられる」
■他の有望業種は不動産 工場「帰郷」で土地需要増
――台湾のハイテク産業の動向についてはどうみますか。
「20年は『巣ごもり』需要や次世代通信規格『5G』の普及、米中対立による台湾企業への発注の切り替えにより、半導体受託生産はもちろん、パソコンやパネルなどの需要が大幅に伸びた。21年は経済活動の正常化に伴って個人のパソコン関連の需要は鈍化しそうだが、企業はコロナをきっかけに自動化や人工知能(AI)の導入などを加速させているため、5Gやサーバー、高速計算関連の部品需要が引き続き旺盛となるだろう」
「半導体の需給逼迫も続きそうだ。TSMCの5ナノ(ナノは10億分の1)メートルと7ナノメートル品のラインはフル回転の状態だ。聯華電子や世界先進積体電路など先端品ではない半導体のメーカーも、米制裁対象になった中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)の代替生産が追いついてない状況だ。また、21年はコロナ感染がピークアウトし欧米の自動車メーカーの稼働率が高まりそうで、自動車向け製品も有望とみている」
「最も心配なのは在庫の状況だ。コロナ感染拡大によるサプライチェーン(供給網)の寸断などのリスクに備え、顧客側は例年より在庫を手厚く確保している。もしエンドユーザーの需要が景気回復の遅れなどで期待ほど戻ってこなければ、過剰在庫の調整を迫られる」
――ハイテク以外で有望とみている分野は。
「コロナによる打撃が大きい観光や小売り、空運株は移動制限が緩和されれば持ち直すだろう。だが台湾市場ならではの有望分野は不動産だとみている」
「米中貿易摩擦などをきっかけに、台湾企業の『帰郷』が19年あたりから加速している。今年1~10月で例年の2倍となる9400棟近い工場が新規に建設された。工場関連の不動産取引額も1~9月で647億台湾ドルと、約12年ぶりの高水準だ。台湾企業が中国から『帰郷』する傾向は、米中摩擦が和らいでも変わらないと考える。台湾に戻ってくるのは、人件費などコスト面で中国の魅力が低下しているのが主因だからだ。低金利の環境が続くなか、商業用不動産の人気は21年も続くとみている」
<カイ・チェン氏の略歴>
米SUNTXキャピタルパートナーズ、ハイランドキャピタルマネジメントなどを経て、11年に犇亜証券に入社。米ベイラー大学で会計学の修士号を取得。