【QUICK Market Eyes 阿部哲太郎】欧米や菅政権による脱炭素推進は、石油以外の新素材の普及に追い風となりそうだ。中でも以前から国内で研究開発が進んできた植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)への期待が高まっている。
■セルロースナノファイバーとは
セルロースナノファイバーは鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を有している点だ。軽さを活かして自動車などの車体に使われれば燃費も向上する。さらに植物由来のためカーボンニュートラルである点も脱炭素が叫ばれる現在では優位な点となる。プラスチックと異なり、土壌に埋めても微生物によって分解される。素材となるセルロースは、植物の主成分であり、樹木の7割はセルロースから出来ている。また、地球上でもっとも多く存在する炭水化物である。
■期待と課題
CNFは、2000年代半ばから先進国を中心に研究開発が進められてきた。2006年には、東京大学によって紙の原料であるパルプから均一なCNFを作る技術が開発された。さらにNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や日本製紙(3863)が周辺技術の研究開発を進め実用化の道を開いた。
2014年には、アベノミクスの成長戦略としてCNFが取り上げられ、産学官の研究開発を推進するための「ナノセルロースフォーラム」が設立された。「日本再興戦略 改訂2014~未来への挑戦~」でもCNFの研究開発によるマテリアル利用の促進に向けた取組を推進すると明記された。その後高付加価値素材としての利用が進み、おむつの消臭剤・化粧品・スポーツシューズの靴底などにCNFが利用されている。
ただ、現状はプラスチックなどに比べて製造コストや輸送コストが嵩むことが大きな課題となっている。関係者が期待を寄せるのは、建築資材、自動車などへの複合資材での利用による量産だ。
■自動車・製紙業界に続く
環境省は、CNFを用いて自動車の軽量化を目指す「NCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクト」に取り組んでいる。東京モーターショー2019では、ドアトリム、ボンネット、ルーフパネルなどの部品にCNFを活用して、部品単体では最大で5割程度の軽量化を、車体全体で1割以上の軽量化を実現したコンセプトカーを出展。100 km/h での試験走行を行い、約 10 %の燃費改善効果があることを試算により確認している。
製紙業界を中心に色々な企業がCNFの研究開発を進めている。11月26日に日本経済新聞電子版が東亜合成(4045)が CNFの価格を従来の2割に抑える技術を開発したと報じられ、一時急騰した。記事によると21年度にも新手法で作ったCNFを発売する。
大王製紙(3880)は高濃度のCNF複合樹脂の開発に成功した。レース用電気自動車の車体外装全体にCNFを実装し、車体の軽量化による燃費向上を実現。一般車への応用を狙う。星光PMC(4963)はCNF複合材料を手掛けている。20年2月にアシックス(7936)とスポーツシューズ材料の実用化で日本オープンイノベーション大賞を受賞した。