【日経QUICKニュース(NQN) 大沢一将】「巣ごもりなんぞ知りませんわ。(そういう)一過性のものではない」。1月25日夕の決算説明会でも永守節は健在だった。日本電産(6594)の2020年4~12月期連結決算は市場予想を上回る好内容だった。足元では電気自動車(EV)関連銘柄として注目が高まる同社だが、今回の決算では車載事業以外でも強さを見せつけ、株価は再び騰勢を強めた。
■営業利益の上方修正を発表
冒頭の永守重信会長の発言は、「精密小型モーター事業の『その他』の伸びは、いわゆる巣ごもり需要なのか」との問いへの返答だ。巣ごもりによるIT(情報技術)機器やゲーム機などの一時的な伸びで成長したわけではなく、先を見据えて実施してきたM&A(合併・買収)や商品開発の努力が「今、花開いている」(永守会長)という。同分野がけん引する形で、2020年4~12月の連結営業利益(国際会計基準)は前年同期比24%増の1155億円となった。
あわせて21年3月期通期の営業利益の上方修正を発表。前期比29%増の1400億円から43%増の1550億円に引き上げ、市場予想の平均であるQUICKコンセンサスの1482億円(21日時点、21社)を上回った。好決算を受けて、26日の東京株式市場で日電産に買いが集中。一時、前日比655円(4.6%)高の1万4975円まで上げ、上場来高値を更新した。その後は上げ幅を縮小したが、終値も80円(0.6%)高の1万4400円だった。
※日本電産の業績(21年3月期は会社予想)参照
※日本電産株価と日経平均株価の相対チャート。(2019年末を100として指数化)
■「急激に引き合いが増えている」
日電産の精密小型モーター事業は主力のHDD(ハードディスクドライブ)モーターと「その他」に分かれる。今回の決算で市場参加者が注目したのは、「その他」の伸びだ。20年10~12月期の売上高は842億円と前年同期比で12%増え、過去最高となった。省エネ化やコードレス化で既存のモーターが日電産の手掛ける小型で高効率のブラシレスモーターに置き換わる流れが背景にある。永守会長は「(精密小型モーター事業のその他は売上高で)1兆円どころではない規模になる(19年度は約2700億円)。それほど引き合いが強い」と話し、自信を見せた。
EV用の駆動モーターを手掛ける車載事業も市場の期待をしっかりとつなぎ留めた。ギアなどと組み合わせたシステム製品「E-Axle(イーアクスル)」について、各国のEV推進策を背景に「10月以降、急激に引き合いが増えている」(関潤社長)。従来、四半期あたり5~8件だった引き合いが今四半期は15件に増加したという。イーアクスルの受注台数は2025年に250万台とする従来見通しを据え置いたが、今後の拡大への期待も高い。
米ゼネラル・モーターズ(GM)の中国合弁会社、上汽通用五菱汽車が20年に発売した小型EV「宏光ミニ」への言及も目立った。永守会長は「EVは小型車が中心になる。自動車の平均価格は5分の1に、(販売)台数は年間3億台の市場になる」と予言。小型EV向けモーターの供給への意欲も見せた。
■目標株価を引き上げ
車載事業の進展や精密小型モーター事業の拡大を評価し、UBS証券は25日付で目標株価を従来の1万4000円から1万7000円へ引き上げた。モルガン・スタンレーMUFG証券も同日付で1万5950円から1万8000円へ上げた。
「確実な変化が起きている。変化に先行することが大切」(永守会長)。日電産の21年3月期の予想利益ベースのPER(株価収益率)は約70倍と一見高いが、先々の成長可能性が評価されており割高感を指摘する声は少ない。時代の変化を見据えて成長を続ける限り、投資家の先回り買いがやむ気配はない。
<金融用語>
QUICKコンセンサスとは
QUICKコンセンサスとは、証券会社や調査会社のアナリストが予想した各企業の業績予想や株価レーティングを金融情報ベンダーのQUICKが独自に集計したもの。企業業績に対する市場予想(コンセンサス)を示す。一方、「QUICKコンセンサス・マクロ」は、国内総生産や鉱工業生産指数など経済統計について、エコノミストの予想を取りまとめたものをいう。 QUICKコンセンサスを利用したものとして、QUICKコンセンサスと会社予想の業績を比較した「QUICK決算星取表」や「決算サプライズレシオ」、QUICKコンセンサスの変化をディフュージョン・インデックス(DI)という指数にした「QUICKコンセンサスDI」などがある。また、「QUICKコンセンサス・プラス」は、アナリストの予想対象外の銘柄に会社発表の業績予想などを採用して、国内上場企業の業績予想を100%カバーしたものをいう。