【日経QUICKニュース(NQN) 須永太一朗】金融・資本市場で、アジア地域での地政学リスクへの警戒がじわり高まっている。中国による南シナ海での軍事演習の方針が伝わったほか、北朝鮮も総書記に選ばれた金正恩(キム・ジョンウン)氏のもと、対外強硬姿勢に出る可能性があるからだ。米バイデン政権は発足直後で、中国や北朝鮮とどう対峙するかがまだ読みにくい。新型コロナウイルスのワクチン普及への期待から、世界的に強まる投資家のリスク選好姿勢に影を落としそうだ。
■アジア株安
26日の株式市場では香港やベトナムの主要株価指数が3%安と、小幅安にとどまった米ダウ工業株30種平均などと比べ下落率の大きさが目立った。27日もインドネシアのジャカルタ総合指数が取引時間中として3週間ぶりの安値を付ける場面があった。外国為替市場でも、台湾ドルやフィリピンペソの対ドル相場の上値が直近で重い。
きっかけの1つが「中国が今週、南シナ海で軍事演習を実施する」というロイター通信の26日午後の報道だ。同海域で軍事演習する米国に対抗する動きという。
26日付の日本経済新聞朝刊は「ドイツ政府は独海軍に所属するフリゲート艦を日本に派遣する検討に入った」と報じた。今夏にもドイツを出港し、長期にわたりインド太平洋地域に滞在するという。「英国も航空母艦を近く太平洋に展開する」とも報じており、中国などをけん制する動きが強まりそうだ。
■アジアの軍事衝突
北朝鮮情勢への警戒感もくすぶる。今月、朝鮮労働党総書記に選ばれた金正恩氏は内外で権力を誇示するため「米領土の射程外となる短距離弾道ミサイルの発射など、米国の報復を招かない範囲で軍事的な挑発に踏み切る可能性がある」(国内証券)との見方がある。今後、再び軍事的挑発に踏み切れば、韓国の株式や通貨ウォンを中心に売り圧力が強まりそうだ。
米国で26日、国務長官にブリンケン氏が就任した。27日には茂木敏充外相と電話協議するなど、バイデン政権は同盟国と連携して外交問題に取り組もうとしている。だが、三井住友トラスト・アセットマネジメントの押久保直也氏は「バイデン政権はロシアなどにも強硬姿勢で臨む分、アジアでの力の入れ具合がトランプ前政権に比べて減るのではないか」と指摘する。
米国は中国と環境分野で協力する必要もある。そのため、対中関係は決定的に悪化する事態は防ぎつつ「20カ国・地域(G20)など国際会議での主導権や、アジア地域での親米派や親中派の拡大を巡って争う動きが中心になりそう」(野村証券の吉本元氏)との見方がある。
市場関係者の間では「アジア地域で実際に軍事衝突が起きる可能性は極めて低い」との見方が大勢だ。もっとも、足元の金融・資本市場では新型コロナのワクチン普及期待を支えに世界の主要株価指数が高値圏で推移するなど、過熱感も指摘されている。アジアでの地政学リスクは格好のスピード調整の材料として、今後も折に触れて意識されそうだ。
今後の米中関係が気になる。