米国では高校生から株式投資をはじめる人が少なくない。大学生の娘に聞くと、同級生のほとんどがロビンフッドの株式投資アプリで取引をしている。新型コロナウイルスのパンデミック(疾病の大流行)で在宅受講になり、情報を収集する時間もできた。ソーシャル・メディア(SNS)アプリのレディットの掲示板にも目を通していると話す。
個人投資家がウォール街の有力ヘッジファンドとの戦いに勝利した。幅広いメディアが株式市場での異変を詳しく報じた。
きっかけはレディットの掲示板「ウォールストリートベッツ」。ヘッジファンドなどの大きいショート(売り)ポジションに注目した掲示板の参加者が、逆張りで戦いを挑み集中的に買うことを呼びかけた。ヘッジファンドのポジション以外に何の根拠もないが、ティッカーシンボルを目立つように大文字にして連呼。「株価をムーン(月)まで押し上げよう」と呼びかけた。
対象となったゲームストップ株は急騰。1月最終週だけで400%高。月間では1625%上昇した。株価が見込みと逆に大きく振れたことを受けヘッジファンドは高値での買い戻しを強いられ、巨額の損失を計上した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、メルビン・キャピタル・マネージメントは1月に運用資金を53%減らした。
ロビンフッドのアプリなどで投資する個人投資家は、投資資金を確保するため保有株を売却。ヘッジファンドは損を穴埋めするため、利益がでている銘柄を大量に売るとの観測が市場で広がった。恐怖指数であるVIXが急騰し、相場全体を押し下げた。レディットが絡んでいることから、連想でSNS大手のフェイスブックやツイッターが積極的に売られた。
音楽や映画に続く形で、ビデオゲーム業界のデジタル化が進んでいる。ソフトをダウンロードするユーザーが右肩上がりで増えた。パンデミックで動きが加速しており、ソフト・パッケージを小売りするゲームストアは2019年はじめから約1000店舗を閉鎖した。それでも業績低迷に歯止めがかかっていない。騒動に巻き込まれた映画館チェーン最大手のAMCは、全米のほとんどで休業を強いられている。アパレルのエキスプレス、携帯端末のブラックベリーも業績悪化でペニーストック(株価が5ドル以下)になっていた。
市場の混乱を受けウォーレン上院議員は証券取引委員会(SEC)など金融当局に対して調査するようCNNのインタビューで訴えた。連邦議会が公聴会を開く可能性もある。ただ、フィナンシャル・タイムズ紙は、レディット投資家が株価操作した証拠を当局が提示する必要があり、投資家は罪に問われない見通しだと報じた。
エリート投資家とされたヘッジファンドと若い個人投資家の戦いはしばらく続くとみられる。レディットの掲示板で複数の新たな銘柄に関する投稿が目立つ。2月1日付けバロンズ紙の表紙と巻頭記事は「ゲームストップ革命は始まったばかり」との見出しがつけられた。2019年の取引手数料無料化に続く形で外出禁止令が寄与し、去年1年で個人証券口座が少なくとも1000万口座増えたとしている。オプション取引が普及し、SNSでの情報共有が加速すると伝えた。知人の市場関係者は「ウォール街に転機が訪れている」と指摘した。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信