【日経QUICKニュース(NQN) 大貫瞬治】東京五輪・パラリンピックの開催を巡る動きに注目が集まっている。東京商工リサーチ(TSR)が2月15日に発表した事業者を対象にした調査では、東京五輪の「予定通り開催」を見込む声が7.7%と、前回2020年8月の調査(22.5%)から大幅に低下した。無観客や観客数を減らしての開催を含めても40%程度にとどまる。新型コロナウイルスの感染収束が見通せないなか、年内開催は見込めないとの見方が強まっている。
■「延期」増加、「中止」は低下
同調査では「延期」は25.8%から33.0%に増加した。東京商工リサーチ情報本部の原田三寛部長は「海外で新型コロナ感染症が収まっていないこともあり、感染拡大への懸念は昨年8月時点より強くなっている」と話す。
一方、「中止」を求める声は27.8%から22.9%に低下した。具体的な経済損失の規模が指摘されていることが低下の背景にあるようだ。宮本勝浩関西大学名誉教授の試算によると、損失は観客の間引きなど簡素化した場合で1兆3898億円、無観客なら2兆4133億円にとどまるが、中止の場合は4兆5151億円まで膨らむ。
■やるべきは新型コロナ対策
政府は開催を進める姿勢を崩していない。橋本聖子五輪相は1月に開いた参院予算委員会で、東京五輪について「開催は既に決定している」として観客の動員についても春までに決めるとの考えを示した。ただ、東京五輪の強行で新型コロナの感染再拡大を招きかねないとの見方もあるなか、経済効果などを念頭に置いた「開催ありき」の姿勢では幅広い理解を得られないだろう。
12日には東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視と受け取れる自身の発言を巡って辞任した。伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは「今後、開催に向けた手続きが難航するとみられるなか、調整能力が高いとされる森氏を失ったことは痛い」とみる。
国内では新型コロナの感染者数が減少傾向となり、医療従事者を皮切りにワクチンの接種も間もなく始まる。それでも収束は見通せず「いまやるべきことは五輪の開催に向けて新型コロナを抑えこむための対策を一丸となってやっていく」(伊藤忠総研の武田氏)しかない。残された時間は少ない。