(初回公開日2021年4月16日18:00)
【QUICK Money World 辰巳 華世】「株価が購入した価格の5倍になった!」そんな羨ましい声が聞こえる投資があります。証券取引所に初登場する株式への投資では、そんなことが起こります。今回はIPO(新規株式公開)株についての基礎知識やメリット・デメリット、2022年に公正取引委員会がまとめたIPO時の公開価格の過少値付け(アンダープライシング)に関する報告書の内容や、実際購入する方法などを解説します。
■IPOとは
IPOとは「Initial Public Offering」の略称で、日本語では新規株式公開と呼ばれています。証券取引所に新規で株式を上場・公開、つまり証券口座を持っていれば取引所を通じて誰でも取引できるようにすることです。上場によって公開された株式のことをIPO株といいます。2021年のIPOは、上場社数(プロ向け市場除く)が125社でした。22年の東証の再編を前に「駆け込み上場」が相次ぎ、例年に比べるとやや多かったようです。ここ数年は毎年100社前後のIPOがあります。
IPO株は初値が高騰しやすいこともあり、短期投資を手掛ける個人投資家にとても人気があります。2021年のIPOでは、上場初値が公募・売り出し価格(公開価格)の平均1.56倍になり、中には4倍超となる銘柄も多数ありました。もっとも初値は必ず上昇するわけではなく、初値が10%以上、下落した銘柄も多数あります。
<初値が3倍以上になった銘柄、1割以上下下げた銘柄(2021年)>
銘柄名(コード) |
公開価格 |
初値 |
初値騰落率 |
1180円 |
5600円 |
4.75倍 |
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1050円 |
4645円 |
4.42倍 |
|
1660円 |
6900円 |
4.16倍 |
|
1260円 |
4845円 |
3.85倍 |
|
3120円 |
9880円 |
3.17倍 |
|
390円 |
1221円 |
3.13倍 |
|
1290円 |
990円 |
▲23.3% |
|
2160円 |
1800円 |
▲16.7% |
|
7200円 |
6100円 |
▲15.3% |
|
4190円 |
3560円 |
▲15.0% |
|
1150円 |
1030円 |
▲10.4% |
|
2000円 |
1800円 |
▲10.0% |
(注)日経QUICKニュース社調べ
◯IPO投資とは
IPO投資として一般的に語られる売買手法は、上場前のIPO株を購入し、初値がついた日に売却することで利益を得る短期的な投資方法です。企業はIPOにより株式を新規に発行し公募することで、株式の対価を受け取る、つまり資金調達できます。人気企業のIPO株は値上がりすることが多いので、たいていは抽選での購入になります。IPO株の抽選は、そのIPO株を引き受ける主幹事証券や幹事証券会社から参加ができます。
IPO投資は、上場前に購入した株式を上場した日に売るだけなのでとてもシンプルです。ただ注意しなければならないのは、IPO銘柄は、通常の上場銘柄に比べると、情報が少ない という点です。すでに上場している銘柄と比べると若い企業が多く、過去の業績を長く遡れないため、現在の業績が一時的なものなのか安定した成長が可能なものなのか、投資家自身が見極める必要があるためです。また、歴史が少ないということは業績に関する報道も少ないです。
IPO株の場合、その銘柄について投資判断に必要な重要事項を説明した目論見書 があり、これを読み込む必要があります。目論見書とは、有価証券の募集や売出しの際に交付することが義務付けられている書類です。なので、IPO株には必ず目論見書があるので、投資を検討する時は必ず目を通しましょう。目論見書には、経営理念から事業内容、財務情報、IPOについての情報など投資判断に必要な情報が全て書かれています。ネット証券などでは、現在取り扱いがある銘柄の一覧があるページなどから、その銘柄の目論見書を閲覧できる様になっています。投資を検討する際には必ず熟読しましょう。
IPO株と似た言葉でPO(Public Offering)株があります。POは、新規上場する企業ではなく、既に上場済みの企業の株式の資金調達のことを指します。POには、既に上場している企業が資金調達のために新たに株式発行する公募増資や、大株主が保有する一部の株式など既に発行されている株式を他の不特定多数の投資家に取得させる売り出しがあります。公募増資は企業に資金が入りますが、売り出しは、株主の異動になるので企業の資金調達にはなりません。POは、市場に出回る株式数が増えることによる需給の悪化や公募増資の場合は1株利益の希薄化が嫌気され、一時的には売り圧力になることがあります。
■IPO投資のメリット・デメリット
メリット:新しい技術を展開する企業が多く、過少値付けの傾向も
一番のメリットは、初値が公開価格以上になることが多く、短期的に利益を得るチャンスが起きやすいことです。IPO投資は、未上場の最後の段階で株式を入手し、上場後に売却することになります。一般的に公開価格は企業の理論価格よりも割安に設定されている傾向 (過少値付け、アンダープライシング)があり、人気の銘柄であれば初値の価格は公開価格より上昇しやすいです。大きく儲ける可能性があるIPO株投資なので、公開価格で購入できた時は、言わば「お祭り」的感覚で楽しむことができるのも魅力の一つかもしれません。
株式投資では、将来有望な銘柄を発掘することは大切です。IPO銘柄には、これまでなかった新しい技術やサービスなどを展開する魅力ある企業が多くあります。未上場企業の中には、AI(人工知能)やIT(情報技術)分野など今後大きく伸びる可能性が高い事業を展開する企業がたくさんあり、そういった企業がこの先、IPOしてきます。将来有望な魅力ある企業を早い段階で見つけるという点でもIPO株に注目することは有意義です。
会社側にとってのIPOのメリットについても簡単に触れておきます。IPOの目的の一つは資金調達の多様化です。株式発行による調達資金で更に事業拡大することができます。また、IPOすることで知名度や信頼度が上がります。知名度アップにより、優秀な人材の確保や取引先の拡大などのメリットもあります。ストックオプションの導入など従業員の士気も向上しやすく、上場による社内管理体制の強化などもあります。
デメリット:公開価格割れや「初値天井」にも注意
一般的にIPO株は初値が公開価格を上回ることが多いですが、全ての銘柄がそうなるわけではありません。中には、初値が公開価格を下回り公開価格割れとなる銘柄もありますので注意が必要です。また、銘柄の人気度合いに関係なく、IPO株は、外部環境によって株価が乱高下しやすい面もあります。新型コロナショックなどで市場全体が混乱した際はIPO環境も悪化しやすいです。2020年2月〜4月に上場した28社のうち18社は初値が公開価格を割り込んでいます。
IPO株は新規に上場するのでどのように株価が変動するか過去の情報がないため予想が難しい点もあります。初値が一番高かった「初値天井 」となるケースもあり、そういった場合、初値で売却しない場合、株価の値下がりが続く可能性もあります。一方で、初値を付けた後にさらに人気を集め株価が急上昇するケースもあります。この様にIPO株は、上場後の株価予想が難しいのが難点です。また、時価総額が小さいIPO銘柄などは短期売買の対象になりがち で、上場直後の値動きが不安定になる傾向があります。
大切なことは、IPO株だからと言って買うのではなく、しっかりとその企業や事業自体を知り投資判断をする ことです。外部環境の影響を受けIPO時に公開価格割れとなった銘柄でも、有望なIPO株であれば上場後に株価が上昇するケースは多々あります。例えば、コロナ禍の2020年4月に当時の東証マザーズに上場した松屋アールアンドディ(7317)は、初値は838円と公開価格(910円)を割り込みました。しかし、コロナ禍で読めなかった自動車や血圧計腕帯向けの縫製受託の受注量が回復したことや経費削減が奏功し大きく業績を伸ばし、株価は一時8270円と公開価格の約9倍まで上昇しました。
なお、IPO企業のうち、新興で成長性の高い企業は、東証マザーズ市場に上場していました。2022年4月の市場再編により、東証マザーズ市場は廃止され、新興で成長性の高い企業を受け入れる役目は、東証グロース市場に移りました(なお、東証マザーズ指数自体は2022年4月以降も継続して算出されています)。
<直近2年間の日経平均と東証マザーズ指数>
※IPO企業は東証マザーズなど新興企業向け市場に上場することが多かった。
■IPOの過少値付け問題は見直しの動きも
なぜ、IPO銘柄には公開価格の過少値付け(アンダープライシング)傾向があるのか、学術研究の分野では株式市場の「謎」のひとつとして多くの研究がされてきました。企業と投資家の間、あるいは複数の投資家の間に「情報の非対称性 」(手に入る情報量の差)があるために起こる、非合理的な現象と見られています。実際、アンダープライシングがなければ、公開価格で株式を売却して資金を調達する企業は、初値が上昇する分、より多くの資金を調達できていたことになります。
スタートアップ企業の資金調達をめぐる環境の適正化のため、公正取引委員会は2022年1月、新規株式公開(IPO)時の公開価格の値付けに関する報告書をまとめました。上場業務を中心的に担う主幹事証券会社が一方的に過小な値付けをする商慣習に対して独禁法違反の恐れがあると指摘し、見直しを促す内容でした。公取委の報告によれば、強い立場の主幹事が一方的に適正でない公開価格を設定し、新規上場企業に不利益を与えるのは独禁法の「優越的地位の乱用 」に該当する恐れがあるということです。
今後、IPO銘柄の初値が高騰しやすい状況に、変化が訪れる可能性があります。
■IPO株の抽選と購入の流れ
IPO株は証券会社から購入することができます。IPO株は、主幹事証券を中心とした幹事証券会社が取り扱います。銘柄によって幹事証券会社は異なります。一般的には主幹事証券会社が一番多くの株式数を取り扱い、副幹事証券や幹事証券とそれぞれ引き受ける割合が異なります。大抵のIPO株は抽選になるので、どこの証券会社が一番多く取り扱っているかを考えて申し込むのも一つの手です。
複数の証券会社から申し込むことは可能ですが、証券会社によっては、抽選に参加する段階で入金が必要な証券会社もあります。未入金でも参加できる証券会社もあり確認が必要です。その他の条件を設定している証券会社もあるので、注意が必要です。
具体的な申し込み方法は、証券会社で通常の株式取引の口座を開設する必要があります。口座開設後、いくらの株価で何株申し込みたいか投資家から申し込んでもらう「ブックビルディング(需要予測)」に参加します。ブックビルディングでは、企業の業績予想や同業他社の株価、機関投資家の意見などを参考にした価格をベースに仮条件がレンジで示されていることが多いです。自分がいくらで何株申し込みたいか証券会社に申告します。
個人投資家の需要予測や機関投資家の意見などを聞き、最終的な公開価格が決定します。人気がある銘柄は仮条件の上限で価格が決まることが多いです。公開価格以上でブックビルディングに参加した投資家の中から抽選で購入者を決めます。ただ、詳細な抽選方法は公表されていないので、抽選については必ずしも平等な抽選ではないかもしれません。口座内の預かり資金やこれまでの取引手数料が多いほど「優遇」するとしている証券会社もあります。
当選した場合は、購入の意思表示をします。未入金であれば、口座に必要資金を入金し購入します。初値で売却したい場合は、上場日の朝に成り行きで売り注文を出します。初値で売却したくない場合は、上場後に様子をみて売り注文を入れることができます。
■まとめ
新規上場する企業の株式を購入できるIPO株投資。初値が公開価格を上回ることが多く、利益を得やすい投資です。購入したい投資家が多く人気があるので抽選になることが多いです。まずは、IPOを取り扱う証券会社を探し、口座を開設してみましょう。
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