(初回公開日2021年5月21日18:00)
【QUICK Money World 辰巳 華世】「半導体」は、株式相場の主役になる銘柄です。株式相場が大きく動く時、その原動力が「半導体」であることがよくあります。景気が良く半導体需要が高まると株価が上昇、逆に半導体需要の減速は相場を押し下げます。これまでも半導体関連銘柄は相場の主役として君臨してきましたが、この先も半導体なしに株式相場を語ることが難しいほど注目が高まっています。今回は半導体とは何かという基本的な話から、半導体の製造工程、半導体が注目される理由、半導体関連銘柄の紹介や、株式相場へ与える影響まで分かりやすく解説します。
■半導体とは
半導体は私たちの暮らしには欠かせない存在です。半導体自体がお店で売られていることはないのであまり馴染みがないかもしれませんが、実際は私たちが使う多くの電化製品、通信や交通などの社会インフラなど身近なところで半導体は使われています。
半導体は、特定の条件で電気を通す物質です。物質には電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」があり、半導体は、条件によって電気を通したり通さなかったりする中間の性質を備えた物質です。半導体の製造は、不純物を含まない高純度のシリコンが使われます。不純物を含まない状態の半導体はほとんど電気を通しませんが、ある種の元素などを含ませると電気を通しやすくなります。半導体は、シリコンの状態や、温度によって電気を通したり通さなかったり、条件によって電気の通し具合が異なります。この性質が、電化製品の制御をする上で重要になります。
身近な例でいけば、炊飯器で美味しくご飯が炊けるのは半導体で電気を細かくコントロールしているからです。パソコンやスマートフォン、ゲーム機などの電化製品には半導体が使われています。銀行のATMや、電車などの交通、インターネットや通信などの社会インフラシステムの機器制御でも半導体は重要な役割を担っています。
今や、私たちの生活は半導体なしでは成り立たない状態ですが、この先のより豊かな社会生活の実現にも半導体は欠かせません。すべてのモノがインターネットにつながる「Iot」やAI(人工知能)、ビッグデータやクラウドサービス、テレワークや電気自動車(EV)の普及など未来を語る上で重要なキーワードには必ず半導体が必要になります。
■半導体関連の銘柄とは?
半導体と一言で言っても、半導体に関連する銘柄は実は幅広いです。半導体の回路を電気的に制御することでデータを記憶保持する役割をもつ半導体メモリに関連する銘柄では、SUMCO(3436)や東京精密(7729)などがあります。半導体の素材や材料関連では、化学メーカーなどの東京応化工業(4186)、住友化学(4005)などがあります。半導体製造装置では、東京エレクトロン(8035)やアドバンテスト(6857)などが有名です。
データの記憶保持するメモリや大量の情報を演算処理したり、データを保存したりする機能を1つのチップにまとめたシステムLSI(大規模集積回路)といったこれまでの半導体のほかに、最近は「パワー半導体」にも注目が集まっています。
パワー半導体とは、大きな電力を扱うことができる半導体で、電力の変換や電圧の制御などが可能なものです。パワー半導体はEVなどの中核部品として使われます。世界的な脱炭素社会の流れから二酸化炭素の排出量が少ないEVが主流となる中、パワー半導体の市場が一段と拡大しそうです。パワー半導体関連銘柄では、東芝(6502)、三菱電気(6503)、富士電機(6504)などがあります。
■半導体業界の景気循環「シリコンサイクル」
半導体市況には、サイクルがあると言われています。半導体の業界特有の構造的な循環が影響し、一般的には4年ほどの周期で好況と不況を繰り返すと言われています。これまで周期的な変動を繰り返していた半導体市況ですが、最近のデジタル化の流れなど社会構造の変化に伴い需給サイクルが変化すると見られています。スーパーサイクルとなり10数年周期に変革すると考えられています。
また、米中対立の影響もあります。コロナ前より米中間の貿易摩擦で、中国から米国への半導体輸出量が減少し、世界の生産需給が大きく影響を受けました。ロシアのウクライナ侵攻も半導体製造に影を落としました。半導体製造に必要なレアガス(希ガス)やレアメタル(希少金属)などはロシアやウクライナから供給されており、侵攻の長期化もあり、影響が深刻化しています。
足元では、半導体を巡る米中競争は激しさを増しています。米国が先端半導体の対中輸出を規制をするなど中国への半導体規制を強めています。今後も世界情勢の半導体への影響は一段と強まりそうで、引き続き動向に注目が集まります。
■半導体関連銘柄が注目される理由
IOTや第5世代の通信企画「5G」などの普及により半導体企業への注目が一段と高まっています。デジタル化の流れやEVの普及に伴い、この先も半導体は私たちの暮らしにより欠かせないものとなります。半導体は、今後も成長が見込めるテーマ株として注目されています。
米国の主要な半導体関連銘柄で構成された株価指数であるSOX指数(フィラデルフィア半導体株価指数)も2020年以降、急激に伸びており、一部ではスーパーサイクルに入ったのではと見られています。
→「SOX指数とは何か」
■半導体関連の注目銘柄
日本の半導体銘柄は世界的に注目される企業がたくさんあります。
半導体は、設計から素材、製造装置までさまざまな企業が分業して関わっています。製造工程は、設計・前工程・後工程の3つに分かれています。
まずは、半導体の性能を満たすための回路の設計が必要です。回路を設計し、効率的なパターンのシュミレーションをした後に、回路パターンを半導体の基板に使うシリコンウエハーに転写するためのフォトマスク(回路原版)を作ります。ここまでが設計工程です。フォトマスクは凸版(7911)などが手掛けています。
前工程は、シリコンウエハー処理工程と呼ばれています。ウエハー上に電子回路を作成するまでの工程になります。シリコンウエハーの表面に酸化膜や金属膜を重ねる成膜、回路パターンを転写する露光、回路以外の部分をガスを使って取り除くエッチングなどの作業になります。前工程の関連銘柄では、素材のシリコンウエハーでトップシェアを誇る信越化(4063)やSUMCO(3436)、露光装置のニコン(7731)、露光時の感光材(フォトレジスト)を手掛けるJSR(4063)、成膜装置やエッチング装置の東京エレクトロン(8035)、ウエハー表面の凸凹を削って平坦化する装置を手掛ける東京精密(7729)などがあります。レーザーテック(6920)はフォトマスクに欠陥がないか検査する装置の中でも、EUV(極端紫外線)を使った機種で急成長を遂げています。
前工程で製造した半導体チップを基板に接合し、切断する工程が後工程になります。後工程の関連銘柄では、ウエハー切断・研磨装置で有名なディスコ(6146)やTOWA(6315)、検査機器でアドバンテスト(6857)などがあります。パッケージに使う部材はイビデン(4062)や新光電気工業(6867)が手掛けています。
こういった工程を経て、ルネサス(6723)や東芝(6502)といったメーカーが半導体を製造し、世界中に販売しています。
<主な半導体関連銘柄>
素材・部材 | シリコンウエハー | 信越化(4063)、SUMCO(3436) |
フォトレジスト | JSR(4185)、東京応化工業(4186) | |
パッケージ | イビデン(4062)、新光電気工業(6867) | |
製造・検査装置 | 設計・前工程 | 東京エレクトロン(8035)、スクリーン(7735)、ニコン(7731)、日本電子(6951)、レーザーテック(6920)、凸版(7911) |
後工程 | ディスコ(6164)、TOWA(6315)、東京精密(7729)、アドバンテスト(6857) | |
半導体メーカー | ルネサス(6723)、ソニー(6758)、ローム(6963)、東芝(6502)、三菱電機(6503) |
■まとめ
テレワークやクラウドサービスの普及、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)などを追い風に、今後も引き続き半導体の需要は高まることが予想されており、半導体関連銘柄の動向は目が離せません。株価をけん引している半導体関連銘柄は投資の有無に関わらず、チェックしておくと良いでしょう。
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今の半導体不足は5~7ナノのような最先端の半導体よりも、こなれた技術の数十ナノの半導体の方がより不足してるところを考慮しないといけないと思う。 利益率の高い最先端の半導体製造の設備投資に偏重し過ぎたことに問題がある。 なので最先端じゃない半導体製造装置を扱ってるところが有望かも。 どうしても最先端の銘柄に行きたくなるけど。