【QUICK Money World 辰巳 華世】東京証券取引所が大きく変わろうとしています。2022年4月に東証1部など今ある4市場の区分から、「プライム市場」などと名前や上場基準も変え、新たな3市場体制に移行します。東証の市場再編は、私たち投資家にとっても大きな影響が出る話です。特に今年の6月末は、この市場再編にとって重要なイベントがありました。今回は東証の市場再編の概要と、家計の資産運用に与える影響について考えてみたいと思います。
東証はプライム・スタンダード・グロースの3市場へ
これまでの東京証券取引所は、市場第一部・市場第二部・マザーズ・ジャスダック(スタンダード及びグロース)の4市場で構成されています。一般的に、成長企業などが多いのがマザーズやジャスダック、企業が成長するに連れて市場2部、そして市場1部へと市場替えをしていくことが多いです。
東証は2022年4月4日から市場区分をこの4市場から、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの市場区分に再編します。新しい市場区分では、各市場のコンセプトを明確にすることで、所属する企業が市場維持のための持続的成長と企業価値向上に積極的に取り組む仕組みになっています。
<市場再編に向けたスケジュール(出所記事)>
(2021年) | 内容 | 詳細 |
6月末日 | 移行基準日 | 新市場における上場適合状況を判定 |
7月9日 | 適合状況を通知 | 東証が新市場への適合の1次判定を通知 |
9月~12月 | 市場選択手続き | 企業が新市場選択のための所定書類提出 |
※移行基準日時点で企業が適合していない市場区分を選択する場合は「計画書」の提出が必要となる。 | ||
(2022年) | ||
1月11日 | 選択結果の公表 | 上場会社の選択した区分の一覧を公表 |
4月4日 | 新市場一斉移行 | 新市場への移行を完了 |
プライム市場とは何か?
そもそもプライム市場とは、東証が新たに設置する市場区分のうち最も上場基準が厳しい市場です。プライム市場に上場するためには、主に2つの基準が求められています。市場で流通する株式比率(流通株式比率)が35%以上であること、流通株ベースの時価総額が100億円以上であることです。これまでの市場1部は流通株式比率5%未満、流通株ベースの時価総額5億円未満で上場廃止と基準が緩めでした。
<各市場の上場維持基準>
出所:東京証券取引所「新市場区分の概要等について」よりQUICK ESG研究所作成(初出記事)
新市場では、流通株式の定義も見直しています。上場株式のうち国内の都市銀行や地方銀行が保有する株式は流通株式から除外します。役員の配偶者と2親等内の血族、役員などが議決権の過半数を保有する会社や、関係会社とその役員といった「特別利害関係者」の保有株式も流通株式から除きます。従来通り、発行済み株式の10%以上を所有する主要株主や自己株式なども流通株から外します。
プライムでは、高いガバナンス(企業統治)水準も求められています。具体的には、社外取締役は現行の2人以上から取締役の3分の1以上とすること。また、気候変動に係るリスクや機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示をすることなどが求められています。
この様に、プライムの上場基準はこれまでの市場1部よりも厳しい条件となっています。これは、企業の自助努力による質の向上を促すとともに、海外市場と比べても見劣りしない上場条件にすることで、グローバルマネーを積極的に呼び込みたい狙いがあります。半面、スタンダード市場はプライムの条件は満たせない中堅企業向けの市場で、流通株式比率25%以上、流通株式時価総額10億円以上となっています。グロース市場は、新興企業向けで流通株式比率25%以上、流通株式時価総額5億円以上となっています。
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なぜ東証は市場再編をするのか?
東証が市場再編する背景には大きく分けて3つの理由があると言われています。1つ目は、これまでの各市場のコンセプトが曖昧だったためです。新興市場が上場する市場としてジャスダックとマザーズが重複していました。
2つ目は、上場廃止基準が比較的緩かったこともあり上場企業の持続的な企業価値向上の動機付けが不十分だったからです。市場1部に上場する企業でも、時価総額が小さかったり業績が低迷している企業もあります。
3つ目は、機能的な株価指数がなかったことです。これまでの東証株価指数(TOPIX)は市場1部の全銘柄が対象となっており、TOPIX連動のインデックス投資が全銘柄を自動的に買うので、流動性が乏しく時価総額が小さい銘柄の価格形成に歪みがでてしまう懸念がありました。
市場再編で「昇格」する銘柄、「降格」する銘柄
東証は6月30日を移行基準日として、それぞれの銘柄を市場の上場基準と照らし合わせて判定し、7月9日頃に上場企業に個別に通知をする予定でいます。これをもとに各企業は9−12月末に新市場を選び、東証に申請します。2022年1月に東証が企業の選択結果を公表する予定です。
投資家にとって今回の市場再編の注目の一つは、例えばマザーズからプライムへの「昇格」や市場1部からスタンダードへの「降格」となる銘柄が出てくる点です。これまで新興市場のマザーズに所属していた企業でも、実は実力十分で判定はプライムとなる銘柄もあれば、市場1部だった企業でも、実態はプライムの新しい上場基準を満たせなくスタンダード判定となる企業も出てくるわけです。
東証が市場判定の基準に使う「流通株式比率」は、実は開示されていません。株主情報も全てが開示されているわけではありません。そこで、QUICKは東証などのアドバイスをもとに有価証券報告書などの公開データを用いて流通株式数を試算し、各銘柄がどの市場判定となりそうかを公表しました。「昇格」しそうな銘柄、「降格」しそうな銘柄を把握することができます。
QUICKの試算によると、6月30日時点で市場2部やマザーズ、ジャスダックに上場している企業のうち、「プライムが妥当」と判定された企業は44社あります。フリーマケットアプリのメルカリ(4385)、100円ショップ大手のセリア(2782)、マクドナルド(2702)、ヨネックス(7906)などです。プライム市場の「実力」がある有望銘柄は、今後の思惑から買いが入り株価が上昇しています。5月末から移行基準日の6月30日までの日経平均株価が1%下落しているのに対し、ヨネックスは16.6%、メルカリは13.6%も上昇しています。
<昇格候補銘柄の一部は株価が上昇している>
「降格」の可能性がある銘柄は、市場1部企業の約3割
一方、市場1部にいながらプライムの基準に達していないと判定された企業は現在の1部企業の約3割に当たる720社ありました。このうちスタンダードの基準にも届いていないと判定された企業も203社あります。
ただ、東証は現状は基準未達でも改善計画を出せば認めるなど移行に伴う経過措置を設定するので「降格」の可能性がある銘柄もしばらくはプライムを維持できる可能性があります。また、条件未達の多くの企業は、ステイタス維持や「降格」による株価下落を恐れプライム入りを目指し上場基準を満たす動きを取ることも予測されます。実際、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZO(3092)は、5月24日に、創業者で前社長の前澤友作氏が保有する自己株式の一部を取得すると発表しました。同時に金融機関当てに新株予約権を発行し、予約権が行使された時点で自己株式を割り当てることで、これまで34.8%だった流通株を向上させます。
<流通株向上に向けた企業の動き一例(出所記事)>
銘柄名(コード) | 内容 |
ZOZO(3092) | 前沢氏から株取得、新株予約権の行使で割り当て |
三菱食品(7451) | 発行済み株数の23%を自社株TOB、消却を検討 |
ソーダニッカ(8158) | 持ち合い解消と自社株買い、取得株は消却を検討 |
日立物流(9086) | 6月4日に発行済み株数の6.2%の自社株消却 |
TOPIXは市場再編でどうなるの?
東証の市場再編でTOPIXがどうなるのかも気になるところです。TOPIXは引き続き算出されますが、段階的に算出ルールが変わります。これまでのTOPIXは市場1部の全銘柄が組み入れられていますが、最終的には条件をクリアした「選別型」のTOPIXに移行していきます。
市場再編の2022年4月4日以降しばらくは、前日まで市場1部にいた全銘柄を所属市場に関係なく継続的に算出します。しかし、22年10月以降は、基準を満たさない銘柄を段階的に除外していきます。21年6月末と翌決算期時点で流通株式時価総額が100億円未満だった企業を「ウエイト(組み入れ比率)低減銘柄」に指定し、22年10月から段階的に組み入れ比率を下げていき、25年1月末には完全に除外します。
つまり、プライムの上場基準の未達で市場1部からスタンダードなどへの「降格」を自ら選択した銘柄や、基準未達も移行に伴う経過措置としての改善計画を出しなんとかプライム市場にとどまっている銘柄も、条件をクリアしない限り25年1月末にはTOPIX採用銘柄から外されることになります。
一方、TOPIXの新規採用については、移行期間中は(2022年4月から25年1月末)プライム市場に新規上場する銘柄のみを追加します。つまり、メルカリやヨネックスなどプライム基準を満たす「昇格」候補銘柄はプライムを選択すれば22年4月にTOPIXに新規採用されます。足元では「昇格」候補銘柄にその思惑を狙った買いが入り株価が上昇しています。
市場再編で新設される指数と廃止される指数
東証の市場再編で新設される指数もあります。22年4月から東証プライム市場指数(仮称)、東証スタンダードプライム市場指数(仮称)、東証グロース市場指数(仮称)など新たな市場区分のくくりで指数が新設される予定です。指数に連動した投資信託の設定など新しい商品ができる可能性があります。
一方、廃止される指数も多数あります。東証第2部株価指数、東証マザーズ指数、JASDAQ INDEX、東証マザーズコア指数などは22年4月に廃止されます。
まとめ
東証は22年4月にプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3市場体制に移行します。最上位市場であるプライムの上場条件は厳しく、日本を代表する企業としての「質」を高めるため、各企業の自助努力が求められます。変革する企業や東京市場に注目していきましょう。
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