ウクライナ情勢を巡る市場混乱の中でも、個人投資家の間で根強い成長期待のある米国株取引。1月に後発で参入したauカブコム証券はKDDI(9433)系のスマホ金融網を活用して顧客を取り込む戦略だ。7月の外国株信用取引の解禁を受け年内にもサービスを始め、独自の取引機能で個人投資家を開拓する。米国株取引の現状と、参入の背景・戦略について同証券で開発を担当した榊原一弥執行役員に聞いた。(聞き手は日経QUICKニュース 宮尾克弥)
世界情勢混乱でも個人の注目高い米株
――米株取引参入の理由は。出足はどうですか。
「米株の取引は対面営業を通じての売買が多かったが、インターネット証券で取引する個人投資家が増えリアルタイムで米株取引をしたいとの要望がここ数年急速に高まってきた。アップルの製品やグーグルの検索を毎日使う人は多く、米企業を身近に感じることが多くなり米株投資のハードルが低くなった」
「1月に米株の取引を開始したが、ウクライナ情勢の緊迫化や米金融政策の不透明感から少し出足は鈍い。ただ、2008年のリーマン・ショックなどもそうだが米国株は下落から立ち直っている。投資家はこうした点をよく見ており、米株取引の活発化から当社の収益に寄与する」
米株信用取引に参入、取引活発化へau経済圏活用
――売買拡大に向けどのような戦略を考えていますか。
「米株の信用取引が7月から解禁となり、当社では年内にも米株信用取引サービスを開始する。米国以外に世界的企業は多くあり将来的に検討する余地はあるが、現状ではまず米株に注力したい」
「KDDIが当社に出資しているのでau経済圏(注1)の活用やauフィナンシャルホールディングスと連携した取り組みを考えている。具体的にはKDDIとauじぶん銀行経由の口座開設や、KDDIも提携するポイントサービス『Ponta(ポンタ)』の活用だ。Pontaはすでに多くの投資家が金融商品の購入時に利用しており拡大を期待している」
(注1)Ponta会員数は3月1日時点で9344万人。
「auのスマホやauじぶん銀行の利用者に直接アプローチしているが、これは米株取引でも活用できる可能性がある。スマホ利用者などへのプロモーションで21年4~12月期の新規の総合口座開設数は前年同期比で25%増加しており、効果はある」
――手数料体系や取引機能はどのようなものを用意したのですか。
「1回当たりの売買手数料は業界最低水準の0.495%(税込み)とした。また、米国市場が開いているのは日本時間の深夜・未明となるため、相場急変に対応できる独自の自動売買機能を用意する。逆指し値機能(注2)やトレーリングストップ(注3)なども日本株取引同様に対応した。銘柄は取引量の多い200銘柄・上場投資信託(ETF)162銘柄の合計362銘柄で始め、順次拡大する」
(注2)逆指し値機能=現値よりも安い価格の売り注文が出せる。
(注3)トレーリングストップ=逆指値注文を相場変動に応じリアルタイムで自動修正する機能。
言語の壁解消へ、三菱UFJモルガンのリポート活用
――いまの個人投資家の傾向と今後の方向性をどう見ますか。
「投資家が求めているのは簡単なことで、企業の成長と株価の上昇だ。アルファベット(グーグルの親会社)、アップル、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトのGAFAMに代表される米企業は業績の成長と株価の上昇が続く可能性は高い。一方、日経平均株価は約30年前の過去最高値(3万8915円)すら抜けず、日本株が急上昇すると考える人は少ない。キャピタルゲインに対する期待値の差が米株注目の背景にある。100株単位が基本の日本株に対し、1株単位で少額から取引可能という手軽さも米株の魅力だ」
――個人の米国株取引の課題は。どう対処しますか。
「日本語で読める投資情報の少なさだ。個別銘柄は日本株に比べ圧倒的に少ない。英語というのは国内の投資家にとってハードルが高く、現地の投資情報サイトや企業の投資家向け広報(IR)関連情報を見ることはさらに大きな壁になる。当社はまず今春から、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が出す日本語による米株リポートを顧客に提供する。当社ストラテジストからの情報提供を含め内容を充実させる」