【NQNロンドン 菊池亜矢】ソフトウエアの独SAP株が売られている。6月30日には84.28ユーロと過去1年(52週)の安値を付け、足元では88ユーロ前後で推移する。ロシア関連費用が収益の重荷になるとの見方がくすぶり、世界的な景気減速も業績への不透明感につながっている。
SAPは、企業のビジネスプロセスを管理する統合基幹業務システム(ERP)ソフトの大手。顧客の業界は幅広く、8割を中小企業が占める。また、世界の大企業100社のうち99社が同社の顧客という。
2022年1~3月期の売上高は70億7700万ユーロと前年同期比11%増えたが、純利益は6億3200万ユーロと41%減った。クラウド売上高が31%増の28億2000万ユーロと増収に貢献した。一方、ロシアのウクライナ侵攻による関連費用や研究開発、マーケティングなどの費用が利益を下押しした。
SAPが強化しているクラウド事業は好調が続く。クラウドの売上高は前年同期比で4四半期連続で2桁増となった。22年1~3月期のクラウド事業の売上高営業利益率は68.2%に達する。同社が成長指標に位置づける今後1年間で見込まれる成約済み案件のクラウド売上高は、28%増の97億3100万ユーロ。22年12月期通期のクラウド売上高は前期比23~26%増の115億5000万~118億5000万ユーロを見込む。
ただ、投資家はロシアを巡る費用の増加を警戒している。SAPは3月にロシアとベラルーシでの新規販売を中止し、ロシアでのクラウド事業を停止した。22年12月期は新規ビジネスの喪失と既存ビジネスの中止などで営業利益に約3億5000万ユーロの影響が出る見通しだ。
インフレや世界的な金融引き締め、欧州ではエネルギー供給不安も加わって業績透明感が急速に増すなか、短期的に顧客のシステム需要が弱まるとの指摘もある。QUICK・ファクトセットによるとSAPの売上高に占める欧州地域の比率は4割程度と大きい。