【NQNニューヨーク=松本清一郎】にわかに金融不安のリスクが市場関係者の脳裏をかすめたかもしれない。中堅銀行のSVBファイナンシャルグループ(SIVB)が前日夕に発表した財務改善策を受け、9日の同社株は6割強も下落、連想売りが金融株全体に広がった。SVBは財務悪化の背景に米連邦準備理事会(FRB)の利上げによる資金調達コストの急激な上昇を挙げており、対岸の火事では済まないのではとの警戒感を引き起こした。
※SVBの株価
SVBは売却可能なすべての有価証券210億ドルを売り払うとともに、普通株と転換可能な優先株などで22億5000万ドルを調達する。このうち5億ドルは投資ファンドのゼネラル・アトランティックから出資を仰ぐ。流動性を確保するため、タームローンの借り入れを従来の150億ドルから300億ドルに倍増する。必死で資金をかき集める計画だ。有価証券の売却では18億ドルの損失を計上する。
SVBはSilicon Valley Bankの略であり、シリコンバレーに本拠を置いてベンチャー企業やベンチャーキャピタル(VC)への投融資を手掛ける。会社資料によると「十分な流動性を確保し、同規模の銀行では預貸率は最も低い銀行の1つだった」という。それが暗転したのがFRBの金融引き締めによる短期金利の急上昇だ。
景気減速に伴って顧客企業の現金消費(キャッシュバーン)が加速、予想以上に預金残高が減少した。それを補うための預金や短期借り入れの金利が急騰し、純金利収入を圧迫した。今回の有価証券の売却を考慮しないベースで2023年12月期の純金利収入は前期比で「30%台半ばの減少」になる見通しという。
SVBの顧客企業の間にも動揺が広がっているようだ。ネットメディアの「ジ・インフォメーション」は9日、SVBのグレッグ・ベッカー最高経営責任者(CEO)が顧客のVCなどに冷静に対応するよう電話で求めたと報じた。「顧客を支えるだけの十分な流動性を持っているが、SVBが困難な状況にあると顧客が噂すればその限りではない」と警告めいた発言をしたとも伝わっている。
SVBは短期金利上昇の影響を受けにくい資産への投資を増やし、純金利収入の確保を進める考え。「多様な資金調達先を持つ大手銀行には同じ問題は起きない」(ウェルズ・ファーゴのアナリスト)との見方もあるが、9日の株式市場ではJPモルガン・チェースは5%安、バンク・オブ・アメリカとウェルズ・ファーゴはともに6%で終えた。ベンチャー企業やVCに依存するSVBに起きた例外的な事態なのか、資金調達問題が業界に広がるきっかけになるのか。当面は市場で懸念がくすぶり続けそうだ。