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米銀「突然死」の余波やまず 政権はバフェット氏に接触 LA発ニュースを読む

サンタモニカで買い物する際はウィルシャー4番通りの市営駐車場を利用することが多い。駐車場近くにファースト・リパブリック・バンクの支店がある。世界に注目され、日本のメディアも取り上げる銀行になるとは想像もしていなかった。週末に久しぶりに馴染みの駐車場に停めた。米国の銀行の多くは土曜日に営業するが、渋い緑色が印象的なファースト・リパブリックは定休日でひっそり。何事もなかったようにみえた。

1985年にカリフォルニア州サンフランシスコで創業したファースト・リパブリックはリージョナル・バンク。いわゆる地方銀行だ。オレゴン、ワシントン、ワイオミング、ニューヨーク、マサチューセッツ、フロリダの合計7州に80を超す支店を持ち、資産規模で米銀14位に成長した。南カリフォルニアの支店はビバリー・ヒルズ、ブレントウッド、ニューポート・ビーチなど高級住宅地ばかり。カンザスシティ連銀主催のイベントで知られるジャクソンホールにも支店がある。富裕層向けのニッチ銀行といえる。

米銀最大手JPモルガン・チェースなど「ビッグ4」を中心に米銀11行は16日、ファースト・リパブリックを支援するため合計300億ドル(約3兆9600億円)を預け入れると発表した。少なくとも120日は預金を維持するという。連邦預金保険機構(FDIC)の保険で守られない25万ドル(約3300万円)超の預金を持つ顧客が大半のファースト・リパブリック。破綻したシリコンバレーバンク(SVB)と類似点が多かったため警戒が強まり、取り付け騒ぎが起きた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、過去1週間でファースト・リパブリックから890億ドル(11兆7500億円)が引き出された。ニューヨークのシグネチャーバンクでも破綻前に巨額資金が流出していた。

救済策でファースト・リパブリックの株価は16日にいったん反発したものの、翌17日に再び売り込まれた。CNBCは、週末を控え、銀行業界への警戒でファースト・リパブリック株が32.8%急落したと報じた。時価総額は1週間で72%も減少し。S&P地銀ETF(KRE)は6%の下落だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、大手銀行の救済策は投資家の懸念を緩和させるのに失敗したと報じた。救済策は短期的なライフラインで、バランスシートの大幅な変化と配当停止で見通しは厳しいとするKBWアナリストのコメントを伝えた。

米地銀から流出した資金は大手銀行に移動する。その規模は2000億ドル(約26兆4000億円)を超えるとされる。ワシントン・ポスト紙は18日、銀行再編が進む可能性があると報じた。ビッグ4にゴールマン・サックスを加えた米5大銀行の資産は銀行業界全体の47%とドイツや日本と比べ占有率は低いと指摘し、米国の大手銀がさらに大きくなる可能性があるとしている。ニューヨーク・タイムズ紙は、ファースト・リパブリックや他の地銀が買い手を探していると伝えた。投資情報誌バロンズは、最大規模の銀行が勝者になる公算だと解説した。

英フィナンシャル・タイムズ紙は「UBS、クレディ・スイスを32.5億ドルで買収合意」と報じた。世界に30行あるG-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)の1つであるクレディ・スイスをめぐるパニックは収束する方向だが、米国の地銀危機の解決は時間がかかりそうだ。JPモルガンのストラテジストは17日付の顧客メモで、米地銀の問題は今月中に解決されない可能性があるとコメントした。「さらなる余震が発生しても驚かない」と警告している。ブルームバーグ通信は19日、バイデン米政権が著名投資家ウォーレン・バフェット氏に複数回接触し、バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイが米地銀に何らかの方法で投資する可能性を議論したと伝えた。

取り付け騒ぎの記事を読んで、大学のゼミで勉強した「豊川信用金庫事件」を思い出した。女子高校生が電車の中で愛知県の豊川信用金庫に就職が決まった同級生に「信用金庫は(強盗が来るから)危ない」とからかったことが「銀行が危ない」と口コミで間違って伝わり、1週間後に取り付け騒ぎに発展した。1973年の事件だ。当時は信金に預金者が押し寄せたが、今回は大手行にオンライン送金された。50年前に存在しなかったツイッターでSVBは「突然死」。ファースト・リパブリック以外の地銀株も軒並み急落したが、ソーシャル・メディアが恐怖を光速拡大させたと指摘されている。米金融当局の対応は早いと評価されたものの、事態はそれより早く動いているようにみえる。

 

 

(このコラムは原則、毎週1回配信します)

福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。

著者名

松島 新


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