【日経ＱＵＩＣＫニュース（ＮＱＮ）　加治屋雄基】11日の東京株式市場で日本製鉄（5401）株が反発した。終値は前日比45円（1.59％）高の2870円だった。10日14時に発表した2024年３月期（今期）の業績見通し（国際会計基準）は市場予想を下回った。同日午後の東京市場で日本製鉄は一時10％超下落したが、11日は前日大幅安の反動もあり、自律反発狙いの買いが入ったようだ。市場ではここ数年で向上してきた収益体質を評価する見方も多く、株価は早期に戻りを試す可能性もある。

今期の連結純利益は前期比47％減の3700億円と、アナリスト予想のＱＵＩＣＫコンセンサス（４月27日時点、14社平均）の4647億円を下回った。本業のもうけを示す事業利益は29％減の6500億円になるとし、原材料高の一服で多額の在庫評価損を見込む。１株当たりの年間配当は40円減の140円を計画する。モルガン・スタンレーＭＵＦＧ証券の白川祐株式アナリストらは10日付のリポートで、高水準を維持しているとしつつ「想定外の減配」との見方を示した。

　足元の株価は３月９日に付けた年初来高値（3294円）から１割超安い。立花証券の入沢健アナリストは「直近の中国の経済状況や市況低迷が株価の重荷」と話す。３月までは中国景気の回復期待が株価の支えとなっていたが、いまでは懸念材料に変わっている。中国国家統計局によると、23年４月の製造業購買担当者景気指数（ＰＭＩ）は前月より2.7ポイント低い49.2と、好不調の境目である50を４カ月ぶりに下回った。

　今期の単独粗鋼生産量は前期比２％増の3500万ﾄﾝ程度を見込むが、中国など海外景気の先行き不透明感は残る。橋本英二社長は10日の決算説明会で、中国の鉄鋼需要について「自動車や家電など耐久消費財向けが良くない。不動産関連の政策失敗で新築マンションも建たず、鋼材需要が伸びづらい」と言及した。

　決算発表直後の株価は今期の減益・減配見通しに反応したほか、このような中国への懸念も重荷となった。しかし、決して悲観材料ばかりではない。ここ数年で鍛え上げた稼ぐ力にアナリストからは高評価が相次ぐ。生産設備の集約や大口需要家向けに値上げを進めやすくする値決め方式の変更を背景に、製鉄事業を中心に収益性が高まっているためだ。

　実際、在庫評価など一過性要因を除いた実質的な事業利益に目を移すと、景色は一変する。今期は前期比９％増の8000億円以上と、３期連続で過去最高を更新する見通しだ。ＳＭＢＣ日興証券の山口敦シニアアナリストはインド事業や電磁鋼板など高付加価値品の強化で「１兆円以上の達成も視野に入る」との見方を示す。

　野村証券の松本裕司リサーチアナリストは10日付のリポートで、実質的な利益水準について「予想以上の推移」と評価した。「高水準の利益を確保できるとの見方が株式市場で浸透すれば、株価が上昇する可能性が高い」とみる。

　日本製鉄は国内に15基あった高炉を25年３月期までに10基に減らす方針だ。一方で電気自動車（ＥＶ）などのモーターコアに使う「無方向性電磁鋼板」の生産体制を強化する。ここ数年の構造改革で「海外事業や脱炭素対応の強化に向けた投資費用が捻出できる経営体制になり、（成長分野への投資で）一段の収益体質の強化につながる」（国内証券のアナリスト）との期待は大きい。見直し機運は着実に高まりつつある。