【日経QUICKニュース(NQN) 佐藤梨紗】外国為替市場で円安が加速している。緩和を継続する日銀と引き締めを続ける欧米の中央銀行の金融政策の方向性の違いが一段と目立つようになり、円売りの勢いが増しているが、要因はそれだけではなさそうだ。昨年以降、日本円と中国人民元は対ドル相場の連動性が目立つ。このところの円安は、中国経済の低迷というリスクも無視できない。
■背景に中国株売り・日本株買い
22日の海外市場で円は1ドル=143円23銭近辺と2022年11月以来およそ7カ月ぶりの安値をつけた。人民元はオフショア市場(中国本土以外の市場)で1ドル=7.2元に迫る水準まで下落している。
英語表示だと「Yen」と「Yuan」である円と元は、両替カウンターのマークがいずれも「¥」だ。その2通貨の連動性が高まっている。過去1年の安値はいずれも昨年10月につけ、その後の戻り高値はそろって今年1月だった。2月以降はどちらも再び下落基調が続いている。
国内銀行のある為替ディーラーは「アジアの取引時間帯で人民元売りが活発になるとドルが上昇し、対円にもドル買いが波及している」と話す。グローバルマネーの日中間での資金移動がこうした動きを促している一因とみられている。
スタンダードチャータード銀行の江沢福紘フィナンシャルマーケッツ本部長は人民元売りが出る場面では「中国景気への懸念から中国株を売って日本株に資金を移す過程で、円売りが出ている」と指摘する。日本株買いと同時に為替変動リスクを避けるために円売り・ドル買いの為替予約(ヘッジ)を行う投資家が多いためだ。
■金融政策の違い、米中間も大きく
中国人民銀行(中央銀行)は今週20日、事実上の政策金利と位置づける最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を引き下げた。利下げは10カ月ぶりだ。金融政策の方向性の違いは、日米間だけでなく米中間でも明確になりつつある。
米国では追加利上げの可能性が高く、その後も政策金利の高止まりが続きそうだ。大規模緩和を継続する日銀と利下げに動いた中国人民銀の政策姿勢は、どちらも米連邦準備理事会(FRB)と対照的となっている。これが結果として円と人民元の連動性につながっているのも大きい。
■中国経済悪化の深さがカギ
円と人民元の連動は今後も続くのか。野村証券の外国為替アナリスト、郭穎氏は「不動産市場を起点に『チャイナ・ショック』が起きれば、円は安全通貨としての側面から買われて、売られる人民元と逆行するかもしれない」と身構える。
香港英字紙は23日に、弱い経済指標を嫌気した資金流出により人民元には下落余地があると報じた。中国当局は不動産市況を支えるてこ入れ策を検討しているとも伝わるが「政府による景気策がなかなか出てこないため、市場の政策期待は大幅に後退している」(MCPアセット・マネジメントの嶋津洋樹チーフストラテジスト)という。
今は足並みをそろえて下落する円と人民元。だが、中国経済の悪化がより深刻になってくると、人民元安が加速するなかで円が買われる状況になりかねないだろう。