近所のモール駐車場にある「スーパーチャージャー」で充電中、中年の白人男性から声をかけられた。テスラ車の購入を検討しているが、保険が高いから迷っていると言う。筆者は昨年11月にガソリン車からテスラ「モデルY」に買い替えたが、保険は2倍近くに上がった。「技術が新しい上に統計が少ないため」と保険会社から説明を受けた。燃料コストは約半分になったと話したが、男性は韓国自動車の起亜など他社の電気自動車(EV)も調べると言って去っていった。
傘下の起亜を含めた現代自動車グループのEVを目にすることが増えた。モーター・インテリジェントによると、テスラの今年上半期の米国内新車販売台数は前年同期比30%増の33万6892台。断トツだが、米国のEV全体に占めるシェアは60%と1年前と比べ10%近く下がった。2位は現代・起亜。3万8457台とテスラに遠く及ばないものの、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォルクスワーゲン(VW)、フォード・モーターを上回った。現代・起亜は国外からEVを輸入するため、バイデン政権のEV補助金対象から外れたが、需要が堅調であることが示された。
イーロン・マスク氏率いるテスラに挑むニッチなライバルが話題を集めている。ロサンゼルス郊外アーバインに本社を置く新興電気トラックメーカーのリヴィアン・オートモーティブ。第2四半期(4~6月)の新車販売台数は1万2640台と、アナリスト予想を10%超上回った。7月中に欧州に初めて出荷すると発表。まず大株主のアマゾン・ドット・コムの配送用として300台を供給する。FOXビジネスは、リヴィアンの株価が7日まで連騰し、8日間で84%も上昇したと伝えた。時価総額は日産自動車やボルボを超えた。ワシントン・ポスト紙は、テスラと同様に販売を伸ばすリヴィアンについて「ピックアップ・トラック」というニッチ市場で成功したと報じた。テスラは年内に「サイバートラック」を発売する計画、リヴィアンと直接競合する。モータートレンド誌は、リヴィアンが今後発売する小型で価格を抑えたSUV「R2S」は「電気SUV版テスラ・モデル3」と伝えた。
マスク氏が440億ドル(約6兆2500億円)を投じて買収したツイッターにも強力な競合が出現した。富豪マーク・ザッカーバーグ氏率いるメタ・プラットフォームズがテキスト版インスタグラムと呼ぶ「Threads(スレッズ)」を導入。サービス開始2日間で7000万人がサインアップした。CNBCは、既存のインスタグラムと同期化できることで成功、インスタグラムのユーザー4人に1人を獲得すればツイッターに並ぶとする専門家のコメントを伝えた。ツイッターが苦戦する絶妙のタイミングでスレッズが導入されたとの解説に加え、「富豪2人の戦い」との視点の報道が多かった。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、長く批判に苦しんだマーク・ザッカーバーグ氏がイーロン・マスク氏のおかげで再び輝いたと報じた。フィナンシャル・タイムズ紙は、「マーク・ザッカーバーグ氏 vs イーロン・マスク氏の対決」はテクノロジー業界のエゴのぶつけ合いだとコラムで伝えた。フォーブス誌は、「ビリオネアの乱闘」と題する記事に、傷だらけの顔をしたマスク氏とザッカーバーグ氏の加工写真を掲載。いまは「籠の中の殴り合い」と評されるが、マスク氏とザッカーバーグ氏の対決は続く見通しだと報じた。
フォーブス誌の世界長者番付トップはイーロン・マスク氏。9日時点の個人資産は2459億ドル(約34兆9200億円)と、9位のマーク・ザッカーバーグ氏の1030億ドル(約14兆6300億円)の倍以上だ。テスラとツイッターに加え、マスク氏は世界の衛星通信を席巻するスペースXなど数多くの成長企業の創業者オーナー。豊富な資金力を背景に成長分野に投資を続けるマスク氏は、今後も世界での存在感を高める可能性がある。マスク氏に挑む企業や実業家は今後も増えると予想され、競争激化で製品やサービスが向上するのは歓迎だ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。