【NQNロンドン=菊池亜矢】パワー半導体世界最大手の独インフィニオンテクノロジーズの株価が堅調だ。7月10日終値は36.28ユーロと、2022年末に比べ28%高い。6月15日には一時39.16ユーロと22年1月以来1年5カ月ぶりの高値を付けた。世界的な景気の減速懸念が強まるなかでも、市場シェア拡大に向けた積極的な投資や経営陣からの前向きなメッセージもあり、業績拡大の期待につながっている。
パワー半導体は電圧や周波数を変えることで効率的な電力制御を行える半導体で、電気自動車(EV)やスマートフォン、太陽光発電など幅広い分野で利用される。同社は特に車載用に強みがあるが、太陽光発電や風力発電のインフラなどでも世界大手の1つだ。最近は、高電圧や高電流に耐えられ、小型化が見込める新素材の炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などを用いたパワー半導体に注力している。
3月にGaNパワーデバイスメーカーであるカナダのGaNシステムズ社を8億3000万米ドルで買収する契約を締結したほか、5月には供給先を多様化するため、中国企業2社とSiCパワー半導体材料の長期調達契約を締結した。さらに、同社としては最大規模の50億ユーロを投じて、ドイツのドレスデンに直径300ミリメートルウエハー(基板)に対応するパワー半導体を量産する新工場の建設にも着手した。26年秋の稼働を目指す。
23年1~3月期決算は売上高が前年同期比25%増の41億1900万ユーロ、純利益は8億2600万ユーロと76%増えた。自動車運転支援システムとEV分野の高い需要が続き、オートモーティブ事業が伸びた。再生可能エネルギーやエネルギーインフラ、自動化などの分野も売り上げが増え、グリーンインダストリアルパワー事業も好調だった。
上半期までの好調な業績を受け、同社は23年9月期通期の売上高見通しを従来の155億ユーロ(150億~160億ユーロ)から、162億ユーロ(159億~165億ユーロ)に引き上げた。調整後売上総利益率は従来の45%から47%に改善すると見込む。ヨッヘン・ハネベック最高経営責任者(CEO)は「エレクトロモビリティ、再生可能エネルギーおよびエネルギーインフラに関連する事業で力強い成長がみられる。将来の業績について全般的に極めて自信を持っている」とコメントした。
中国が今月、半導体の素材などになるガリウムとゲルマニウムの関連製品を輸出規制の対象にすると発表したことについて、米ウォール・ストリート・ジャーナルは「現時点で当社の生産能力を混乱させるような材料供給への大きな影響は見られない」とするインフィニオン広報担当者の発言を伝えている。米中政府の対立が先鋭化しているのは、やや気がかりだが、米モルガン・スタンレーは「一部の投資家は10年間にわたるエネルギー転換のニーズに注目し、特にパワー半導体分野でインフィニオンが有力な投資先であると考えている」と指摘する。
QUICK・ファクトセットによると、予想PER(株価収益率)は13.7倍と過去5年平均(20.4倍)と比べ割高感は乏しい。株価の一段高には、好業績を維持できるかが大きな焦点になりそうだ。