【NQNロンドン=菊池亜矢】独スポーツ用品大手アディダスの株価が上昇基調だ。8月30日終値は4日続伸し183.44ユーロと、2022年末比で4割強高い。21日に年初来高値(188.60ユーロ)を付け、その後も底堅く推移する。米ラップ歌手との協業打ち切りが重荷となっていたが、関連商品の在庫販売で業績への影響が限られるとの見方が台頭。成長市場であるインドでの売り上げ拡大の期待も支えとなっている。
8月初旬に発表した23年4~6月期決算は、売上高が5%減の53億4300万ユーロ、純利益は71%減の8400万ユーロだった。在庫が積み上がり、値引き戦略を続けたアパレル部門の売り上げが落ち込んだ。物流コストの増加に加え、戦略の見直しに関わる一時的な費用や寄付金などが利益を押し下げた。
一方、23年12月期通期の業績見通しは引き上げた。為替の影響を除いた売上高は前期比1桁台半ばの減収と、従来の1桁台後半の減収からマイナス幅が縮小する見通し。営業損益は4億5000万ユーロの赤字と、従来の7億ユーロの赤字予想から上方修正した。1~6月期の事業が想定を上回って推移したのに加え、米ラップ歌手のイェ氏と協業したブランド「イージー」の好調な在庫販売を反映した。
イージーを巡っては、イェ氏が反ユダヤなどの差別的言動を繰り返したことで、アディダスは22年10月にブランドの生産終了を決めた。大量の在庫の扱いを検討していたが、複数回に分けて在庫を再販し、売り上げの一部を国際団体に寄付することを決定。第1弾の再販を6月に実施していた。米証券テルシー・アドバイザリー・グループは「イージー再販による業績への好影響は見通しに完全に含まれておらず、23年12月期通期の会社見通しには上振れ余地がある」とみる。
インド市場の成長余地が大きいことも好材料だ。インドクリケット評議会(BCCI)は5月、アディダスとインドのクリケットチームの公式キットスポンサー契約を結んだと発表。期間は28年3月までの約5年間とする。8月中旬にはインドのメディアが、同国のフットウエア小売り最大手のバタ・インディアが同国市場での戦略的提携に向けてアディダスと交渉中だと伝えた。
QUICK・ファクトセットによると、同業の米ナイキは直近12カ月の売上高の1.9%をインドが占める。一方、アディダスにとってインドの存在感はまだ高くない。バタ・インディアはインド全土に店舗を構え、自社製品のほか他社ブランドも扱う。両社の交渉は最終段階にあるとみられ、まとまれば「インドは長期的な成長が見込まれる重要市場であり、アディダスの成長加速を促進する可能性が高い」(欧州銀行)との見方がある。
アディダスのビョルン・ガルデン最高経営責任者(CEO)は4~6月期決算の発表資料で、2023年は在庫を一掃させ、将来の製品群の開発や提携の構築などにあてると強調。そのうえで、「24年に好転させ、25~26年に良好で収益性の高いアディダスに向けた基礎固めをする」との考えを示した。ここまでの株価の動きは業績回復に向けた同社の取り組みを前向きに受け止めているようにみえる。