【NQNロンドン=菊池亜矢】フランスの高級ブランドLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの株価が軟調だ。7日まで7日続落し、一時722.10ユーロと8カ月ぶりの安値を付けた。9月に入ってからは、欧州企業の時価総額首位の座から陥落。高成長を支えた地域の1つだった中国経済の減速懸念が強まり、成長期待の後退を受けた投資家の売りが優勢となっている。
QUICKのデータでは6日時点のLVMHの時価総額は、米ドル換算で3932億ドルだった。5000億ドルを超えた4月下旬のピークから比べると1000億ドルほど減少した。代わって欧州企業で首位になったのが米市場に上場するデンマークの医薬品大手ノボノルディスクで、同社の米預託証券(ADR)は4298億ドルだった。
LVMHが欧州トップの時価総額に駆け上がる原動力となったのは中国だった。年明けに新型コロナウイルス規制を解除し、同国の経済再開の期待が広がった。だが、中国を取り巻く環境は大きく変化。足元では不動産不況やさえない個人消費など経済の減速感が漂う。LVMHのお膝元であるユーロ圏ではインフレ圧力が根強い。金融引き締め局面の長期化観測から高インフレと景気悪化が併存するスタグフレーションへの懸念がくすぶる。
市場では、「経済減速の警戒度が引き上がるなか、投資家が高級ブランド分野から、景気後退でも信頼できる収益を確保できるヘルスケア分野に株式の持ち高を一部移し替えていることを示唆している」(英運用会社)との見方がある。金融情報会社リフィニティブによると、欧州の主要なヘルスケア株を組み入れるストックス欧州ヘルスケア株指数は6月末比で3%近く高い。欧州の高級品株をまとめたストックス欧州ラグジュアリー10指数は約12%安と対照的な動きだ。
もっとも、LVMHの上半期決算は好調だ。23年1~6月期の売上高は、為替変動の影響や事業構造の変化を除いたオーガニックベースで前年同期比17%増の422億4000万ユーロ、経常利益は同13%増の115億7400万ユーロだった。主力のファッション・レザー部門の売上高が20%増えたほか、香水・化粧品と時計・宝飾品がいずれも2桁の伸びを記録した。「様々な企業との戦略的パートナーシップの拡大に加え、他社が競争することが難しいほどのブランドの魅力など、他社との差異化がますます強まっている。安定した利益率を維持する見込みで、長期目線の投資家にとっては安心できるものが多い」(英HSBC)との見方もある。