【NQNロンドン=菊池亜矢】自動車大手の独BMWの株価が軟調だ。9月に入り一時93ユーロ台と3月以来6カ月ぶりの安値圏に沈んだ。19日終値は97.66ユーロと戻りは鈍く、6月に付けた年初来高値からの下落率は14%に達した。中国製の電気自動車(EV)が欧州市場で存在感を高める中、中国と欧州連合(EU)の間で保護主義的な政策が強まりかねないとの警戒が株価の重荷となっている。
■決算は好調、中国向けの復調も鮮明だが…
BMWが8月上旬に発表した2023年4~6月期決算は好調だった。自動車部門の売上高は前年同期比5%増の316億3000万ユーロ、税引き前利益は27億4000万ユーロと8%増えた。販売台数の増加に加え、自動車の製品構成の改善効果も収益を押し上げた。
4~6月期の国・地域別の販売台数では、中国の復調が鮮明となった。前年同期に比べ16.2%増の19万8161台と、新型コロナウイルス感染抑制策を緩和した直後だった1~3月期の6.6%減から急回復した。1~6月期では、全体が前年同期比4.7%増の121万4864台。このうち、中国が3.6%増の39万3261台と、3割強を占めた。
■欧州と中国の関係悪化に懸念
決算が好調だったにもかかわらず、BMWの株価がさえないのは中国と欧州の関係悪化への懸念が背景にある。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は13日の欧州議会で、中国製の安価なEVの欧州市場への流入を問題視し、同国の補助金支援が競争を阻害していないか調査する考えを示した。一方、14日には中国商務省がEUの調査に対して「強烈な不満」を示すなど緊張が走っている。
市場には、EUが安価な中国製EVに対して行動しなければ、ドイツの自動車産業の空洞化につながるとの見方がある。一方、「両地域間の摩擦が高まれば、中国市場でドイツの自動車メーカーへの風当たりが強くなり、苦境に陥る可能性がある」(ラボバンク)との指摘がある。
■中国産EVという潜在的なリスク
英バークレイズは、政策支援に加え、原材料調達から販売、アフターサービスに至る事業活動を統合した運営をしているため、中国のEVは価格面での競争力がかなり高いと分析。「競争は10万~20万元(1万2500~2万5000ユーロ)の大衆向け市場ですでに激しくなっているが、最終的には高価格帯に広がる可能性があり、BMWやメルセデスベンツ・グループにとって潜在的なリスクになる」とみる。
中国では不動産不況や若年層の高い失業率などを背景に、中国の消費動向にも先行き不安がくすぶる。高級車のブランドとして人気がある中国を重要な市場と位置づけて成長を続けてきただけに、BMWに対する投資家の慎重な姿勢は続きそうだ。