【日経QUICKニュース(NQN)】英国市場でオフィスビルに投資する不動産投資信託(REIT)が振るわない。新型コロナウイルス感染症の大流行をきっかけに在宅勤務が浸透し、オフィスになかなか人が戻らない。TMT(テクノロジー・メディア・通信)を中心にオフィススペースを見直す企業が増えている。インフレにもかかわらず、賃料収入が上がりにくくなっている。
「レンタル・リセッション(賃貸不況)」。米ジェフリーズのアナリストが27日付のリポートで首都ロンドンのオフィス市況をこう表現し、市場の話題をさらった。
リポートによると、オフィス空室率は金融街シティーで10%に達するなどロンドン全体で「30年ぶりの高水準にある」という。ランド・セキュリティーズやブリティッシュ・ランドといったオフィスを手掛けるREIT4銘柄について投資判断を引き下げ、目標株価は27~45%、一気に引き下げた。
ブリティッシュ・ランドは26日、ロンドン市内に保有するオフィスビルに入居していたSNS(交流サイト)の米メタプラットフォームズが、1億4900万ポンド(約270億円)と引き換えに賃貸契約を解除したと公表した。英金融大手HSBCはロンドン市内で本社を移転する計画だと伝わる。報道によると、HSBCが2026年に移る予定の場所は現行の半分程度の規模に縮小するという。
不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)によると、ロンドン中心部のオフィス空室率は6月末時点で9.4%。3月末時点(8.9%)から一段と上昇し、長期的な平均(5.5%)を大きく上回る。1平方フィートあたりの賃料は商業施設や文化施設が多く集まるウエストエンド地区で130ポンド、シティーで75ポンドほどで安定しているものの、賃貸動向は停滞が続いていると説明する。
英イングランド銀行(中央銀行)がこの夏まで利上げを続けてきたのも、REITには逆風だ。物価高や金利上昇で不動産価格や投資利回り(キャップレート)には上昇圧力がかかる。それでもジェフリーズは、賃貸の不透明感などを理由に不動産投資の市場には資金が入りにくくなっていると指摘。高騰する修繕費を賄いきれず物件を十分にメンテナンスできない結果、家賃収入が伸び悩み、投資利回りを1%吸収してしまうことになると試算する。
9月27日のロンドン市場ではランド・セキュリティーズが前日比4%安の579.20ペンス、ブリティッシュ・ランドが3%安の315.80ペンスで終えた。今年の高値と比べそれぞれ22%と39%安い。それでもジェフリーズが示す目標株価(455ペンスと250ペンス)を踏まえると、まだ2割ほどの下落余地が残ることになる。