【NQNロンドン=蔭山道子】欧州の株式市場で、フィンランドの通信機器大手ノキアの株価が3年ぶりの安値圏に沈んでいる。一方、スウェーデンの同業エリクソン株は足元で上向いており、5日には一時5カ月ぶりの高値をつけた。両社の株価が全く逆の方向へ大きく振れたのは、米AT&Tが米国で「オープンRAN(ラン)」の整備を進めるのに向けて、エリクソンとの5年契約を発表したのがきっかけだった。
ノキア株は5日のヘルシンキ株式市場で一時2.696ユーロと2020年3月下旬以来の安値をつけた。対するエリクソン株は、5日のストックホルム株式市場で59.70スウェーデンクローナと今年7月上旬以来の高値をつけた。
AT&Tは、エリクソンと契約した5年間で最大約140億ドル(約2兆円)を投じる可能性がある。エリクソンにとっては「金額で過去最高の契約」(同社)という。「AT&Tはノキアを退け、エリクソンとのサプライヤー契約に合意した」、「エリクソンはライバルのノキアに対して、大きな意味のある勝利を収めた」。欧米メディアはAT&Tとエリクソンの契約を、ノキアを引き合いに出しながらこう報じた。
オープンRANは、無線通信網を構築する技術仕様を公開し、異なるメーカーの機器を組み合わせて通信網を整備することを可能にする仕組み。コスト削減や運用効率の向上につながる。AT&Tは26年後半までに、無線通信網のトラフィックの70%をオープン対応のプラットフォームで対応できるよう目指す。
一方のノキアは現地時間5日夕、AT&Tとエリクソンの契約を受けて「(ノキアの)モバイルネットワーク事業におけるAT&Tからの収入は、向こう2~3年の間、減少するだろう」との見通しを公表した。同事業は今後も利益を確保し続けられるものの「2ケタの売上高営業利益率を達成する時期は最大で2年、遅れることになる」との認識も示した。
5日の公表資料でノキアは、契約の決断が「AT&T特有の理由によるものだと、AT&Tと確認した」と言及。ノキアの製品やサービスなどについて、AT&Tは「高い競争力があるとみている」とも説明した。だが市場の受け止めは厳しい。ドイツ銀行のアナリストは6日付のリポートで「ノックアウト」だとの見方を示し、ノキアの投資判断を「買い」に据え置いたまま目標株価を4.00ユーロから3.50ユーロへ引き下げた。
ノキアが10月に公表した23年7~9月期決算はモバイルネットワーク事業を中心に振るわず、前年同期比で2ケタの減収減益だった。「市場回復の時期は不透明」(ペッカ・ルンドマルク最高経営責任者)として、コスト削減のため26年末までに最大1万4000人を削減する計画を示した。同社は12月12日に投資家向け説明会を予定する。グループ全体や各事業の戦略について改めてどう説明するか、市場の関心を集めそうだ。