【NQNロンドン=蔭山道子】今週、血液製剤などの医薬品メーカーであるスペインのグリフォルスの株価が一時、急落した。1月9日に前日比4割安の8.1000ユーロと昨年来安値を更新した。「過去に不適切な会計処理があった」と指摘する投資会社リポートがきっかけだ。グリフォルスは11日に説明会を開き、同リポートは「まったくの誤りで、ミスリーディングだ」と否定した。
投資会社ゴッサム・シティ・リサーチは9日公表したリポートで、グリフォルスが利益や負債の数字を操作していたと主張した。グリフォルスの負債比率は、会社側の公開情報からは6倍程度となるのに対し、ゴッサムは「実際は10~13倍程度に上る」との見方を示した。グリフォルスが一部出資する会社の会計上の扱いも不正確だなどとし、グリフォルス株は「投資できるものではなく(価値は)ゼロに近い」と指摘した。
グリフォルスは80年以上の歴史がある血液製剤の大手だ。欧州だけでなく北米でも買収で事業を拡大し、売上高(2022年12月期通期で60億ユーロ強)の約6割は米国とカナダで稼ぐ。2006年にスペインの株式市場に上場し、11年には米ナスダック市場に米預託証券(ADR)を上場した。今月9日には米市場のADR価格も一時、前日比35%近く下げた。
グリフォルス側は今回の騒動に「(ゴッサム・シティの)私利私欲のため」と憤慨する。会社の評価や株主の利益が損なわれたこと、関係する患者や血液のドナー(提供者)に不安をもたらしたことを踏まえて法的措置に踏み切る方針だ。
さらに「空売り中心のファンドとして株価下落を目的とするのでなければ、ゴッサム・シティによる異なる解釈を理解できない」とし、今回のリポートは財務や資産売却を含む過去に公表済みの情報ばかりで、隠されていた新情報のようなものは何もないと強調する。スペイン証券取引委員会によると、ゴッサム・シティがリポートを公表した9日、ゴッサムの関係会社がグリフォルス株の売り持ち高を減らしていた。
スペインの証券当局も調査に動きだした。グリフォルスのグランツマン最高経営責任者(CEO)は、当局から情報を明確にするよう10日に求められたことを明らかにし「(期限の10日後までに)できるだけ早く対応する」と述べた。
「株価は当面、不安定な推移が続くかもしれない」(スペインのサバデル銀行)との声はあっても、他のアナリストからは今のところ、グリフォルスに対する投資判断の変更など目立った反応はない。当局による調査やグリフォルスによる法的措置の成り行きも株価に影響を及ぼしそうで、投資家の関心は高まっている。