【QUICK Market Eyes 平井啓一朗】トラックドライバーの働き方を改善し人材確保などにつなげようと長時間労働を見直す「2024年問題」に関わる法律の施行が4月1日に迫る。現場に詳しい『トラックドライバーにも言わせて(新潮新書)』などの著者、橋本愛喜氏は「大手の下請け企業などは給与水準の低下が見込まれ、むしろ転職を決意するドライバーが出始めている」と打ち明ける。下請け企業の輸送力低下は長期的に大手企業の業績や株価の低迷を招くと警鐘を鳴らす。特に荷主側の輸送費の買いたたきなどが問題視されているBtoB(企業間)輸送に関わる企業は宅配業者以上に影響を受ける可能性がある。
■2024年問題とは?
4月1日から変わるのはトラックドライバーの時間外労働(残業)時間の上限だ。労働基準法を改正し、残業の上限が年960時間に制限される。休憩を含む拘束時間を1日あたり原則13時間(最大15時間)以内にする改善基準告示なども厚生労働省が定めた。
懸念材料としてよく指摘される問題は宅配など物流の停滞だ。30年度には法改正前の現状と比較して34%の輸送力の減少が起こると予想されている。対策として国は賃上げなどによって人材確保ができるように必要な予算の確保などに緊急的に取り組むとしている。ただ、自身もトラックドライバーの経験があり現場に詳しい橋本愛喜氏は「労働時間を減らしても働き方は変わらず、むしろドライバー不足が加速する」と指摘する。
■辞める決意をしたドライバーも
陸運業は大手企業が中小企業に配送を多重下請けする構造で成り立っている。大手企業は下請け企業に委託費を払うが、下流に行くほど取り分は減っていくのが通例だという。橋本氏は「下流の企業が十分に賃上げできるほど委託費を増額するのは非現実的で、労働時間の制約でドライバーの給与水準は下がるだろう」とみる。
大手企業と比較して、中小企業のトラックドライバーの収入は低い。厚生労働省の「2022年賃金構造基本統計調査」によると1000人超企業のトラックドライバーの平均月収が36万6000円、年間賞与などの特別給与額が71万5900円(年収換算で約510万円)に対して、100人未満は平均月収が35万9600円、賞与などが29万2300円(同460万円)だ。
橋本氏には2024年問題を契機に、(タクシーやバスの運転手など)他の職種への転職を決意したトラックドライバーの声が100人余り届いているという。「下請け企業の人員が不足すれば、大手企業が取り扱える荷物が減り中長期的に業績に打撃を与える」と警鐘を鳴らす。
■企業間輸送こそ24年問題の影響大
特に運賃水準が宅配便と比較して低い傾向にあるBtoB(企業間)輸送に関わる企業は、委託費の捻出が難しく、人手不足の影響を受ける可能性がある。上場企業の一例ではトナミホールディングス(9070)や福山通運(9075)、セイノーホールディングス(9076)などだ。日銀の企業向けサービス価格指数によると、宅配の価格が道路貨物輸送全体を上回る水準で推移している。
宅配便は企業間輸送に比べて値上げしやすい。ヤマトホールディングス(9064)や佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(9143)、日本郵政(6178)傘下の日本郵便の3社がシェアの9割以上を確保する寡占状態にあるからだ。
一方、企業間輸送は荷主側の企業と物流企業間の価格交渉において荷主側による「買いたたき」などが深刻化している側面がある。公正取引委員会も問題視し、調査に乗り出しているほどだ。ある物流企業の関係者は「運んで当たり前という認識から物流サービスは基本的に供給過多になっており荷主側の立場が強い」と嘆く。
両者の関係性から、荷主の都合によってドライバーが待機させられる「荷待ち」や荷物の積み下ろしなど、業務時間に含まれずドライバーに負担だけを強いる業界特有の慣習もはびこる。橋本氏は「単純に労働時間を制限しても働き方は改善されない」と指摘する。下請け企業を中心に賃金の改善と荷主の意識改革が進まないと、人手不足は解消されないと訴える。
2024年問題は宅配業への影響が取り上げられる機会は多い。ただ企業間輸送に関わる大手企業が自らの社員のみならず、下請けや荷主との関係性をどう見直していくかも、長期的な業績や株価形成を考えるうえで大きな課題だ。