【QUICK Money World 辰巳 華世】日銀のマイナス金利解除が意識されこの先の株価はどうなるのか? 気になっている人は多いと思います。24年の年明けから急騰を続ける日経平均株価。バブル期の1989年に付けた史上最高値(3万8915円)を上回り、3月には4万円の大台も突破しました。日銀の金融政策の変更は、株価にどんな影響を与えるのか? 今回は、日銀とは? マイナス金利解除とは? という基本的な説明から、日銀のマイナス金利解除が株価に与える影響や業種別の影響などについて見てみましょう。
日銀のマイナス金利政策とは?
「日銀のマイナス金利解除」――最近よく耳にする表現ではないでしょうか。とは言っても、実はあまり詳しいことは分からない人も多いかもしれません。日銀のマイナス金利政策を説明する前に、そもそも「日銀」って何か知っていますか?まずはそこから見ていきましょう。
日銀とは、日本銀行のことで、略して日銀(にちぎん)と呼ばれています。では、日銀って普通の銀行と違うのでしょうか?日銀は、私たちが日常的に使う銀行とはちょっと違う銀行です。私たち一般の人が預金したりすることはできません。
日銀は、日本の中央銀行として重要な役割を担っています。日銀の仕事は、大きく分けて3つです。
①お札(日本銀行券)の発行 |
①は分かりやすいですね。お札をよく見ると日本銀行券って書いてありますよ。②物価の安定③金融システムの安定は、ちょっとピンとこないかもしれませんが、ここが「日銀のマイナス金利政策」に関わる部分になります。詳しく見てみましょう。
日銀が民間の銀行と違う点として、具体的には民間の金融機関から預金を預かり、金融機関に貸出を行う「銀行の銀行」であることと、国のお金の出し入れを行う「政府の銀行」であることがあります。
民間の銀行は日銀にお金を預けています。民間銀行は他行との取引の決済をスムーズにするために、「準備預金制度」に基づき、日銀の当座預金口座に一定の準備預金を預け入れることが決められています。
銀行に預金をすればその時の水準で利子が付くのと同様、民間銀行が預ける日銀の当座預金口座にも本来であれば利子が付きます。しかし、ここを敢えて「マイナス金利」の状態にすることが「日銀のマイナス金利」政策です。細かく言うと、決められた基準を超えて日銀に預けている預金に付く金利をマイナスにする政策です。
マイナス金利の状態とは、預金者が利子をもらえるわけではなく、むしろ預金者が手数料を払ってお金を預ける状態です。ちなみに日銀のマイナス金利の水準は、マイナス0.1%です。
「日銀のマイナス金利」政策の狙いは何なのでしょうか?
それは、民間銀行に企業の設備投資や個人の住宅ローンなど貸し出しを増やしてもらい、世の中に多くのお金を流すことで景気を良くすることです。
民間銀行は、基準以上のお金を日銀に預けると手数料を払わなければいけない状態です。余計なコストをかけてお金を預けるよりも、金利を付けて貸し出せる企業融資や個人融資にお金を回した方が銀行の経営にはプラスです。だから、民間の銀行は、余計なお金を日銀に預けるより企業や個人などへの融資を増やす流れになるわけです。世の中にお金が流れれば、企業は積極的に設備投資ができたり個人が住宅を買いやすくなったりと、景気が良くなる動きに繋がります。
日銀がマイナス金利政策を導入した理由
日銀がマイナス金利政策を導入した理由は皆さんも体感として分かると思います。最近でこそ物価上昇を感じることが多いですが、振り返ってみると日本は過去何十年もの長い間、物の値段が上がらない「デフレ」の状態が続きました。
デフレとは、物の値段が下がり、結果として働く人の収入も増えず、ますます物が売れなくなり景気も良くならない状態です。日銀は安定的な物価上昇の流れを作ることを目標にマイナス金利政策を導入したのです。
日銀がマイナス金利政策の導入を決めたのは2016年1月です。日銀は世の中にお金を流して景気をよくしようと「いきなり」マイナス金利政策を導入したわけではありません。その前段として13年4月に金融機関などが持つ国債を日銀が大量に買って世の中にお金を流す「量的・質的金融緩和」政策の導入を決めています。これまでもいろいろな政策を打ってきましたがあまり効果がなかったということで、日銀は、過去に例を見ない「マイナス金利」政策をカンフル剤として導入したわけです。
マイナス金利政策導入で日本経済や株価はどうなったか?
マイナス金利政策は、日銀の当座預金口座の一部に導入されたものでしたが、その異例の政策は短期金利だけでなく、長期金利や超長期金利など金利全般が低下するという事態を招きました。
世の中の金利が低下したため、例えば銀行が貸出金利で利ざやが思うように稼げなかったり、超長期の運用が必要な保険や年金運用が影響を受けたり、私たちの預金金利が低下したり金利にまつわるさまざまな影響がでました。
株価への影響で言えば、金利と株価はシーソーのような関係で、一般的に金利が下がると株価を押し上げる要因になると言われています。当時の日本株の状況を振り返るとマイナス金利政策導入の影響で金利が低下したことを受け、株価は一時的に上昇しました。
ただ、その上昇は続きませんでした。株価はさまざまな要因で動きます。当時を振り返ると16年6月に英国でブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)が決まったり、米国の大統領選挙があったりと、世界経済の不確実性が高まった時期で市場は混乱しました。
もっとも11月に米国の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利したことをきっかけに流れは変わりました。トランプ政権の経済政策への期待から米株式相場は大幅に上昇。ドル高・円安が進んだことから、輸出企業の追い風などを背景に日本株も上昇しました。
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なぜ今「マイナス金利の解除」が話題なのか?
さて、16年に日銀が導入した「マイナス金利」政策。ここにきて「マイナス金利」の解除に関連する話を新聞やニュースでよく見るようになりました。
日銀は「賃金上昇を伴う形で2%の物価目標が持続的、安定的に実現する見通し」が立てばマイナス金利を解除など金融政策の転換をする方向です。
日銀のマイナス金利解除の時期が意識される様になった理由の一つに日本の物価上昇があります。多くの人が感じているように、最近日本の物価が上昇しています。足元の物価上昇は、世界的なインフレの波が日本にも押し寄せたことが影響しています。コロナ禍にロシアのウクライナ侵攻が重なり、エネルギー価格が急騰したことなどが、米国をはじめ世界でのインフレを加速しました。また、日本の物価高は円安が進み輸入コストがあがったことも関係しています。
さて、日本の物価高は、世界的なインフレが押し寄せたと書きました。ここで、簡単に世界の状況を確認しておきましょう。日本は長いことデフレに苦しみマイナス金利政策を導入していますが、世界はどうなのでしょうか?
世界ではコロナ禍以降、インフレが加速しました。例えば米国では急激な物価上昇が発生し、米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)はインフレを抑えるためにすでに大幅な利上げを繰り返してきました。急速な円安が進んだ背景には、米国は利上げが続く一方で、日本はマイナス金利政策継続と日米の金利差が広がったことが関係しています。
ただ、ここにきて世界の様子はまた変わりつつあります。インフレ抑制のため利上げを続けてきた米国でしたが、物価上昇が鈍化してきたこともあり、この先FRBが利下げに転じるとの見方が広がっています。日本は物価が上昇してきたのでマイナス金利解除の方向が意識される一方で、先行して利上げしてきた海外の中央銀行では利下げの動きが出始めている状況です。
話を日本のマイナス金利解除に戻します。マイナス金利解除の条件の一つである物価上昇ですが、どれくらい日本の物価は上昇しているのでしょうか?
物価上昇を測る物差しとしてCPI(消費者物価指数)という経済指標があります。これは、日銀が言う「2%の物価目標」を見る指標になります。CPI(除く生鮮食品)を見ると、23年12月まで前年比は28カ月連続でプラスであり、日銀の目標とする2%も21カ月連続で超えている状況となっています。
(QUICKデータより作成)
物価も上昇してきて、日銀のマイナス金利解除を意識したニュースなどをよく目にするようになってもなお、日銀がマイナス金利政策という金融緩和策を継続してきたのはなぜなのでしょうか?
その理由の一つは、日銀は「賃金の上昇を伴う」物価上昇に重きを置いているからです。確かに、物価だけが上昇し、賃金が上がらなければ、私たちの暮らしはただ苦しくなるだけです。結局、物を買わなくなり景気は悪くなってしまいます。
そのため、日銀のマイナス金利解除の話で今後注目される材料の一つは、賃金上昇がどうなるかです。23年の春闘では3.6%と大幅な賃上げが実現し、24年も第1回回答の集計結果が平均5.28%と、高い賃上げ率が達成されています。大企業だけでなく中小企業にもその流れが続くかも注目されます。また、賃金の上昇を受けて、私たちの購買意欲が高まり自然と物価高につながる好循環が続くかどうかも大きなポイントになりそうです。
日銀のマイナス金利解除で日本株はどうなる?
日銀のマイナス金利解除、その後、利上げへと金融政策の正常化の道を辿れば、国内金利は上昇傾向が高まります。金利と株価の関係は一般的にシーソーのような関係です。金利が上がれば株価は下がることになります。
過去の利上げ局面を振り返ると、直近では2006年3月の量的緩和解除とそれに続く2回の利上げがあります。この時の金利と株価の関係はシーソーの様に金利が上がり、株価が下落しています。長期金利の指標である新発10年物国債の利回りは、量的緩和解除が決まった06年3月9日の1.6%から3カ月後には1.845%に上昇しました。一方、日経平均株価は、1万6036円から3カ月後には約8%下落し1万4750円でした。
関連記事:利上げすると株価はどうなる? 影響と過去の利上げ局面をわかりやすく解説
足元の日経平均株価は急騰しています。24年の大発会で3万3288円だった日経平均は3月には一時4万円の大台を超えました。株価上昇には複数の要因がありますが、その一つには日銀の金融政策の変更時期が市場の想定よりも後ろ倒しされる可能性があるとの見方が広がっていたこともありました。
(QUICKデータより作成)
日銀の金融政策の変更は世の中に大きな影響を与えます。そのため、株式市場では日銀の金融政策変更の時期を巡りさまざまな思惑が働きます。23年後半では、24年の早い段階で日銀のマイナス金利解除や利上げがあるのではないかと見る投資家が多かったですが、24年に入りその思惑が後退しました。ただ、足元では再び早期の政策変更を見込む声が増えています。
実際にマイナス金利解除が決まれば、株価が調整する可能性は高いです。マイナス金利解除によりこれまで円安で推移していた為替は円高傾向が強まると予測されています。これまで円安で日本株を買ってきた外国人投資家が円高になったことで利益確定で日本株を売る動きも予想されます。輸出企業は円高になると利益が減るので業績悪化による株価への影響もありそうです。一方で、マイナス金利政策の近いうちの解除が広く予想されていることから、すでに市場への影響は一定程度織り込まれており、発表後の相場の反応は軽減されるとも見込まれます。
全体的に見るとマイナス金利解除は株価にネガティブな影響が多いとされますが、すべての業種にとってネガティブではありません。例えば、金利上昇で貸出金利の利ざや拡大が見込まれる銀行株には恩恵があります。銀行株では、三菱UFJフィナンシャル・フループ(8306)など大手都市銀行だけでなく、千葉銀行(8331)、京都フィナンシャルグループ(5844)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354)など地銀も高配当狙いを含め魅力が高まります。
金利上昇で運用環境が改善する生損保にも恩恵がありそうです。東京海上ホールディングス(8766)、T&Dホールディングス(8795)、SOMPOホールディングス(8630)などです。アイフル(8515)などノンバンクなども金利上昇メリットがありそうです。
マイナス金利解除の影響で為替の円高傾向が強まれば、ニトリHD(9843)など円高に強い銘柄も注目されます。また、海外旅行に行きやすくなるとの見方から日本航空(9201)、ANAホールディングス(9202)などの航空業界、エイチ・アイ・エス(9603 )、ベルトラ(7048)など旅行関係にも一定の恩恵はありそうです。
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まとめ
日銀のマイナス金利解除による株価への影響は全体的にはネガティブな側面が多そうです。ただ、すべての業種にとってネガティブというわけではなく、銀行株など金利上昇によるメリットを受ける業種もありそうです。日銀の金融政策の変更を意識しながら、株価の動きに注目しましょう。
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