金融市場の経験則では、「今回は違う」(This time is different.)という言葉が聞かれ始めるとそろそろ終わり・ピークが近いといわれます。なぜなら、金融市場はサイクルで動くためです。
言い換えれば、「今回も同じ」が正解で、「今回は違う」と言えば間違います。
実体経済の景気循環や金融市場のブームとバスト(破裂)といったサイクルは、大小の過信と不信、あるいは楽観と悲観に基づいて生じるでしょう。
そうしたサイクルから逸脱する「今回は違う」(This time is different.)はいわば「掟破り」であり、「今回は違う」は金融市場の禁句とも言える言葉です。
ひょっとしたら、金融市場の一部の参加者は、単なる願望を表現するため、あるいは他者を新たな買い手として誘い込むために、間違うとわかった上で「今回は違う」と表明する場合もあるかもしれません。ほかにも「いつか終わるだろうが、ついていくしかない」と悟って「今回は違う」を認める参加者もいるでしょう。そうした意味においても、「今回は違う」は注意して聞かなければなりません。
たしかに技術革新によって、われわれは「今までとは違う世界」にたどり着くことができます。それまでの常識が通用しない世界です。鉄道や自動車、航空機、電気、電話、インターネットなどはわれわれをそうした世界に連れ出しました。
しかしながら、技術革新には熱狂がつきものです。ひとびとは「過剰を上乗せ」します。需要をはるかに超える発注や生産、設備投資が生じたり、ファンダメンタルズを超える水準にまで株価が打ち上げられたりします。
「今回は違う」を確固たるものにした著書
金融市場において「今回は違う」(This time is different.)ということばを確固たるものにしたのは、アメリカの2人の経済学者が過去800年間の金融危機について調べた著書、“This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly”でしょう。
以下、同書から引用します。
「過去800年間に起きた危機の細部に分け入り、データの山をつぶさに調べた末に、私たちはこう考えるようになった。金融危機直前の絶頂期に投資家が聞かされてきた助言は、「今回はちがう」という認識に基づいていた、ということである。その代償は大きかった。「昔のルールはもう当てはまらない」という主張は熱狂的に受け入れられ、金融のプロが、さらには政府の指導者が、われわれは前よりもうまくられる、われわれは賢くなった、われわれは過去の誤りから学んだ、と言い始める。そのたびにひとびとは自分で自分を納得させた。過去のブームはほぼ決まって悲劇的な暴落につながったものだが、今回は大丈夫だ。なぜなら現在の経済は、健全なファンダメンタルズや構造改革や技術革新やよい政策に支えられているのだから、と。」(カーメン・Mラインハート、ケネス・Sロゴフ著、村井章子訳『国家は破綻する――金融危機の800年』日経BP社)
最近になって「今回は違う」がいくつか聞かれ始めました。3つ取り上げてみます。
聞かれ始めた「今回は違う」①:今回は景気後退は来ない
まず、「今回は景気後退は来ない」との主張です。
過去の金融市場のパターンでは、すべてではないものの、多くのケースで「利上げや逆イールド(=長短金利の逆転)のあとは景気後退が来て」います。
しかし、景気拡大がつづくなかで、「今回は違う。これまで言われてきたような『ソフト・ランディング』ではなく、『ノー・ランディング』であり、米国経済は『着陸』しない」(≒浅い景気後退すら生じない)との見方が出てきています。
たとえば、ロイター通信社は3月1日付の記事で、複数の運用者やストラテジストの発言を取り上げて、逆イールドはもはや景気後退の前兆ではないと報じています。
聞かれ始めた「今回は違う」②:今回はバブルではない。
もうひとつ聞かれるのが、「今回はバブルではない」との主張です。
現在の米国株式市場も、一部のテクノロジー株式が偏った上昇をみせ、しかもバリュエーションも高水準になっており、2000年の頃の米国株式市場と似ているようにみえます。
しかし、株価上昇がつづくなかで、「今回は違う。今回は2000年のITバブルの頃とは異なり、大型テクノロジー企業には利益が伴っているので、バブルではない」との見方が出てきています。
たとえば、3月11日付の米Fortune誌の記事や、同12日付のBloomberg社の記事では、主要な米投資銀行の複数のストラテジストが「現在の株式市場やテクノロジー株式の上昇はバブルの状況ではない」と考えていることを伝えています。
もうひとつの「今回は違う」③:今回はインフレではないか。
2点目の「今回はバブルではない」に関連して大事なのは、いま上昇しているのは、人工知能(AI)や半導体に関連する株式や『マグニフィセント7』だけではないということです。
ゴールドやビットコインもそうですし、そうしたキャピタル・ゲインがある資産だけではなく、(100で満期償還される)米国のハイ・イールド債券も買われています。
さらには、高金利で圧迫されていたはずの米国の住宅価格も再び上昇しています。
このように、多くの資産価格が上がる状況をみると、もうひとつの『今回は違う』がみえてきます。
それは、「今回こそインフレが来るのではないか」というものです。
ひとびとがインフレのリスクを気にしているのであれば、不換紙幣を持つのを止め、退蔵できるモノや資産に換えようとします。
インフレのリスクを感じさせる要因は、(引き締めが望ましいときの)中央銀行による貨幣発行の増加や金融緩和であり、これを招く公的債務の増加や金融機関の苦境でしょう。
すでに、実体経済と金融政策は「債務の虜囚」になっている可能性があります。
(次回につづきます)
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