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「今回は違う」の使い方③:資産運用も「今回は違う」(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2024/4/10 16:00 最終更新日 2024/4/10 16:00 米国・欧州 米景気 米金利 フィデリティ

前回、筆者は「金融市場参加者のインフレ期待が高まっているために、さまざまな資産が買われているのではないか」という見方を示しました。

インフレ期待が高まるときには(モノではなく)まずは資産で持ち越そうとするはずです。たとえば卵をいくら買っても腐ってしまうだけです。

とはいえ、国債市場の期待インフレ率は上がっていない:その3つの理由

ここで反論があるとすれば、筆者が「インフレ期待が高まっているのでは?」と主張しても、実際には、国債市場(固定利付国債)の利回りは安定していますし、インフレ連動国債市場に織り込まれる期待インフレ率も同様であることが挙げられるでしょう。

インフレ期待は落ち着いている。

市場金利や期待インフレ率が低位安定している理由はいくつか考えられます。

ひとつには、国債市場の参加者が、「たとえ実質金利がマイナスになろうとも、中央銀行が財政従属や金融抑圧などで国債市場に介入して利回りを低位安定させてくれれば=名目のリターンさえ安定していれば問題ない」と感じているケースです。

こうした感覚は、自分のお金ではなく、他人のお金を運用しているときに生じます。たとえば、顧客が国債市場での運用を望んで運用者に資金を預ける限り、気にすべきは実質ベースでのリターンではなく、インデックス対比でのパフォーマンスであり、名目の世界の話にとどまります。「顧客の資金が実質ベースでマイナスになろうとも、それは顧客の判断である」という状況です。

もうひとつは、資産のインフレ率を無視しているケースです。ひとびとがインフレを恐れるときには、(モノでは退蔵できないために)かならずしもモノでは持ち越さず、資産で持ち越そうとします。言い換えれば、インフレ懸念や期待インフレ率は、物価のインフレ率だけではなく、資産のインフレ率にも現れ、おそらくは後者が前者に先立つとみられます。

このため、とくに政府債務の「発散」が視界に入り、なおかつ実質ベースでの目減りを防ぎたい場合には、後者にも目配りをしつつ、国債を値付けすることが求められます。仮に、資産のインフレ率で測ると、現在の米国の実質金利(=実質ベースでの期待リターン)は大幅なマイナスです。

資産インフレが進む。

国債市場の参加者は、資産から始まる「貨幣からの逃避」を見過ごしている可能性があります。彼らが過去40年のディスインフレ時代の経験に生きていれば、「貨幣からの逃避」についてはわからず、対応が遅れる可能性があります。

3点目として、国債市場は「中央銀行が今回もやってきて、インフレを退治してくれる」と考えている可能性があります。確かに、それが過去40年のサイクルでした。

過去40年に限れば、インフレは抑制されるのがサイクルだった。

言い換えれば、国債市場は『今回は違う』ではなく、『今回も同じ』と考えている可能性があります。

しかし、もしかしたら、今回ばかりは『今回は違う』が正解で、インフレが来るかもしれません。

今回ばかりは(今までは冷静で、ほとんどのケースで正しかった)国債市場は間違っていて、今回ばかりは国債市場以外の、(今まではブームに踊って間違ってきた)資産市場のほうが正しいかもしれません。

「今回は違う」の使い方:株式市場の参加者と同様に、国債市場の参加者も必ず間違う。

冒頭で、「今回は違う」は金融市場の禁句であり、この言葉を使うと間違うと述べました。

しかし、筆者はいま「今回は違う。今回ばかりはインフレが来るかも?」と述べました。それでも筆者は「問題はない」と考えています。

なぜなら、過去40年にとっての「今回は違う」は、人類の歴史のスパンで考えると「今回も同じ」に変わるためです。

過去40年の世界をみると「今回はインフレになるぞ」という主張は(実際にはそうならなかったわけですから)過去のサイクルに反する主張です。すなわち、ひとびとは「今回は違う」と言っていることになります。

他方で、人類の歴史をみると、「インフレになるぞ」という主張は(毎回、インフレになってきたわけですから)過去のサイクルどおりの主張です。すなわち、ひとびとは「今回も同じ」と言っていることになります。

『今回は違う』は、長い歴史を考えると、『今回も同じ』になる。

すなわち、「今回は違う」を使うときは、どの期間を指して言っているのかに注意する必要があります。

国債市場の参加者が過去40年の世界に生きていれば、彼らは十中八九、間違う運命です。

皮肉にも、国債市場参加者の無視や過信が低金利につながってインフレ圧力を生み、自らの間違いを演出しているのではないでしょうか。

もっと長く見ると、高いインフレが起きるのがサイクルだった。

資産運用の重要性が高まる:資産運用も「今回も同じ」ではなく、「今回は違う」

たしかにいまの株高の一部は投機や過剰であり、金融市場の歴史を考えると、いつか終わるでしょう。それがサイクルです。

しかし、株高の別の一部は「インフレへのヘッジ」からきている可能性があります。人類の歴史を考えると、最後はインフレになります。それがサイクルです。

今までの資産運用は「もうかったから、今日はちょっとぜいたくしよう」という具合に資産価格の上昇が購買力の増加を意味したでしょう。

しかし、債務やインフレを考えると、これからの資産運用においては「預金が目減りしなくてよかったね」という具合にかならずしも購買力の増加を意味しない可能性があります。

冒頭で日本の実質賃金や個人消費支出をみましたが、なにせ『外国人プライス』ですから、資産が増えていないと、スイーツの持ち帰りも外食も国内旅行もままならない状態です。

それだけに、そして、巨大企業と資本家による利益と富の独占を打ち崩せないいま(orそのように政治を動かす気がないいま)、資産運用の重要性が高まっているといえるでしょう。

そういう意味では、資産運用についても「今回も同じ」ではなく、「今回は違う」ということではないでしょうか。


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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