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「コードカット」ストリーミングに勢い、加速する視聴スタイルの変化【米株キーワード】

【NQNニューヨーク=稲場三奈】テレビ離れがうたわれ、ストリーミング(動画配信)サービスが台頭してから久しい。テレビ視聴の仕組みが日本と異なる米国では、視聴者獲得の主戦場がケーブルや衛星からインターネットに移行。大型ハイテク企業も加わるストリーミングを主軸にした競争が激しさを増している。

国土面積が日本の26倍と広大なうえ、アラスカやハワイといった飛び地がある米国はテレビの視聴形態が日本とは大きく異なる。チューナーを内蔵したテレビは少なく、家庭ではケーブルテレビ(CATV)や衛星放送を契約するのが一般的だった。米ソフトウエアのサンバTVによると、2022年後半時点で米国成人の48%がCATVまたは衛星放送を視聴していたという。

米国の代表的なテレビ局といえば、ABC、NBC、CBS。「3大ネットワーク」と呼ばれており、それぞれウォルト・ディズニー、コムキャスト、パラマウント・グローバルが所有する。FOXを加え4大ネットワークと称されることもある。CATVや衛星放送を契約すると、スポーツや映画、音楽、旅行、料理など、様々な専門チャンネルを選べるのも特徴だ。

これらは、視聴者が各局が決めたプログラムをリアルタイムでみるため「リニアTV」と呼ばれ、複数の放送局の番組を提供するCATVや衛星放送などを番組配信事業者(MVPD)という。コンテンツを制作するテレビ局と家庭まで届ける事業者によって成り立ってきた米国のテレビビジネスだったが、多様化するニーズに応えきれずに勢いを失っている。

米調査会社ライトマン・リサーチ・グループによると、23年のストリーミングを除く米国の有料テレビ事業は契約者が減少した。大手配信事業者の全体では503万件(7%)の契約者を失い、22年の459万件減から悪化した。中でもコムキャストは203万件減、チャーター・コミュニケーションズは102万件減となった。

 

■台頭するストリーミング、テレビ局と配信事業者の関係に変化

旧来型のテレビビジネスの退潮が鮮明となる中、台頭するのがオンデマンド型のストリーミングサービスだ。CATVや衛星放送の契約を解除し、インターネットがあれば視聴できるストリーミングに乗り換えることを「コードカット」と呼ぶ。テレビにつないだケーブルを切ることになぞらえた言葉で、こうした視聴者を「コードカッター」ということもある。

米調査会社のニールセンによると、24年4月の米国における動画視聴時間のうち、リニアTVを除くストリーミングの割合はテレビ全体の38.4%と、前年同月の34.0%から増加。一方、CATVは31.5%から29.1%に減少した。ストリーミングのシェアは拡大を続けており、フォーブズ・ホームが2月に公表した調べでは、米国民の95%が少なくとも1つ以上の動画配信サービスを利用していることがわかった。

ストリーミングはケーブルやチューナーを必要としないうえ、料金が相対的に安いのも利点だ。例えば、チャーター傘下のスペクトラムが提供するプランでは、150以上のチャンネルを視聴でき毎月64.99ドル。一方、ネットフリックスの月額料金は最高でも22.99ドル。たくさんのチャンネルを束ねたCATVは今の視聴者にとって、無駄にみえてしまうのは無理もない。

放送局と配信事業者は持ちつ持たれつの関係にあったが、契約者の減少は放送局の広告収入の落ち込みにもつながり、両者にはあつれきも生まれ始めた。23年8月にはディズニーがスペクトラムへの配信を一時的に停止する騒ぎが起きた。契約で折り合えなかったことに起因したが、テレビのビジネスモデルの厳しい現実を浮き彫りにする「事件」だったともいえる。

ディズニーはABCのほかにスポーツ専門の「ESPN」が傘下にある。全米の人気スポーツであるプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」と学生アメフトの開幕時期と重なり、両方を視聴する「権利」を失った消費者の不興を買った。9月には番組配信を続ける契約の合意に至ったものの、ネット回線からサービスを提供する「バーチャルMVPD」と呼ばれる「fubo」と「Sling TV」が乗り換え先になると注目を集めた。

ストリーミングサービスは、ネットフリックスのような専業だけでなく、テレビ局を傘下に持つ企業が相次ぎ参入しており、競争は激しい。契約者数を増やすため、料金の引き上げやアカウント共有の有料化、広告付きの低価格プランなど選択肢を増やしている。こうした取り組みが奏功したネットフリックスは15日、広告付きプランの世界での契約者が4000万人となり、前年の500万人から増加したと公表した。

 

■ライブスポーツが次なる主戦場に

生き残りに向けて同業間の提携も広がってきた。ディズニーはワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの「Max」とのバンドルプランを今夏に予定している。コムキャストの「ピーコック」も、ネットフリックスやアップルの「アップルTV」とのバンドルプランを5月後半にも開始すると、14日に公表した。

もうひとつの成長戦略は、スポーツ中継への参入だ。NFLは15日、クリスマスに開催する2試合をネットフリックスでも配信すると発表した。25年と26年のクリスマスにも少なくとも1試合ずつ配信する3年契約を交わした。JPモルガンはネットフリックスにとって「契約者と広告売上高の成長につながる」と分析。NFLは熱狂的なファンが世界中にいることが強みだとみる。

NFLは4大ネットワークの牙城だったが、アマゾン・ドット・コムが木曜開催の試合を中継するほか、アルファベット傘下の「YouTubeTV」が22年には日曜日の日中に開く複数の試合を中継する「サンデーチケット」の放映権を取得した。ピーコックが1月にプレーオフを独占放送した際にはおよそ2800万人が視聴。国民的スポーツの中継が、新規契約者の増加や既存契約者の維持につながることは証明済みだ。

ネットフリックスはプロレス・格闘技興行のTKOグループ・ホルディングス傘下のプロレス団体WWEの主力興行「Raw」を25年初から独占配信する長期契約を結んだ。だが、こうした動きには不満もくすぶる。フーボTVは2月、今秋にも始まるスポーツ配信プラットフォーム「Venu」を計画するフォックスとワーナー・ブラザーズ、ESPNを提訴した。スポーツ中継に強いフーボには顧客流出のリスクとなるからだ。共同会社の設立が発表された日にはフーボ株が一時30%安となった。

■囲い込み戦略、視聴者不在のまま進む懸念も

バンク・オブ・アメリカは1日付のリポートで、Venuの台頭は、「ここ数年メディアのエコシステム(生態系)全体で業績に大きな影響を与えてきたコードカットに続くものだ」と指摘。CATVを契約したことすらない「コードネバー」をターゲットにしており、コードカットを加速させるリスクもあるとみる。

こうした囲い込み戦略に、批判的な声が上がっているのは事実だ。パット・ライアン下院議員はピーコックがNFLの試合を独占配信した際、「我々は(ピーコックとグループである)NBCに視聴料を支払っているのだから、試合をみさせろ!」といい、議会に宛てた書簡を公表。ストリーミングだけの試合中継を批判した。

勢いのあるハイテク企業がスポーツ中継の放映権獲得に動き出したことで、米国の人気スポーツの放映権料は一段と上昇する可能性がある。放映権料を手にするスポーツ団体などは確実に潤うが、放送するテレビ局やストリーミングサービスなどが広告や会員の増加で収益を高め続けることができるのか、なお未知数な面はある。

旧来のテレビ局とストリーミング事業者が競い合うように有力コンテンツに高いコストをかける流れは止まりそうにない。コードカットが広がるにつれ、メディアのエコシステムも大きく変化するだろう。だが、メディアによるコンテンツ獲得競争のなかで、置き去りにされている視聴者がいるのもまた事実だ。

<コードカットの関連銘柄>
(騰落率は22年末~24年5月24日、△は上昇、▲は下落)

銘柄名(チッカー) 騰落率
主な事業
ウォルト・ディズニー(DIS) △17.1%
映画製作や動画配信サービス「ディズニー+」や「Hulu」、「ABC」、スポーツ専門「ESPN」など
パラマウント・グローバル(PARA) ▲29.1%
映画製作や動画配信サービス「パラマウント+」のほか、「CBS」、ケーブル局「MTV」など
ネットフリックス(NFLX) △2.2倍弱
動画配信サービス
コムキャスト(CMCSA) △10.2%
動画配信サービス「ピーコック」や「NBC」、経済専門「CNBC」など
ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD) ▲18.5%
映画製作やテーマパーク運営、ニュース専門の「CNN」など
フォックス(FOX) △9.4%
「FOX」のほか、経済やスポーツの専門チャンネル
アップル(AAPL) △46.2%
動画配信サービス「アップルTV」
アマゾン・ドット・コム(AMZN) △2.1倍
動画配信サービス「アマゾン・プライム・ビデオ」
アルファベット(GOOGL) △98.3%
動画配信サービス「YoutubeTV」
フーボTV(FUBO) ▲28.1%
スポーツ中継に強いバーチャルMVPD「fubo」
ロク(ROKU) △39.4%
動画配信機器
チャーター・コミュニケーションズ(CHTR) ▲19.9%
MVPD、CATV「スペクトラムTV」
エコスター(SATS) △10.8%
衛星放送サービス「DISH TV」のほか、バーチャルMVPD「Sling TV」

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著者名

NQNニューヨーク 稲場 三奈


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