【NQNニューヨーク=川上純平】米国の電力需要が過去の平均を上回って拡大するとの見方が浮上している。電気自動車(EV)の普及に加え、人工知能(AI)を稼働させるのに必要なデータセンターの増加や製造業の国内回帰が背景にある。化石燃料の消費を増やさずに電力需要をまかなうために再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電にも注目が集まる。
■電力需要の伸び加速
石油や石炭など化石燃料を使う技術の動力源を電気に置き換える「electrification(電化/電動化)」。温暖化ガスを減らす取り組みの一環で、身近な存在になってきたEVはその代表例だ。バンク・オブ・アメリカ(BofA)の予測では、米国の電力需要は2023~30年の間に年平均で2.8%増加する。13年~23年の増加率が同0.4%だったことを踏まえると、今後は電力消費量の伸びが大幅に加速する。
こうした高い伸びを支えるのが製造業の国内回帰に加え、AIの波だ。AIの学習や推論などに使うデータセンターでは大量に電気を消費し、「データセンターの運営費のおよそ半分は電気代」(キーバンク・キャピタル・マーケッツ)という。米紙ワシントン・ポストは3月、マイクロソフトやグーグル、アップルなどの大手ハイテク企業が「新たなデータセンター用の土地を探し回っている」と報じた。
■電源確保に動く大手ハイテク
もっとも、再生エネの拡大に伴い、火力発電の比率が下がることは「送電の安定性に対する懸念を高める」(BofA)面がある。データセンターの稼働が停止した場合の損失は大きく、発電量が天候に左右されやすい再生エネの拡大は運営上のリスクとなる。ハイテク企業の間では自前で電源を確保しようとする動きがある。
電力会社のタレン・エナジーは3月、原子力発電所に隣接するデータセンターを米アマゾン・ドット・コム傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に売却すると明らかにした。AWSは原発から直接、電力の供給を得ることになる。脱炭素に配慮しつつ、安定的な電源を確保しようとする試みだ。
次世代原発を手掛けるオクロは5月、特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて米株式市場に上場した。対話型AI「チャットGPT」を開発したオープンAIのサム・アルトマン氏が会長を務める。上場を通じて調達した資金は原発の開発に充てる。ロイター通信によればアルトマン氏は1月、AIの発展には「エネルギーの革新が必要だ。それが核融合にさらに投資する動機になる」と語った。
■電力関連銘柄の物色広がる
米株式市場では、原子力発電を手掛ける銘柄の上昇が目立つ。米国最大の原発事業者であるコンステレーション・エナジーの株価は5月末時点で22年末比2.5倍と強い値動きだ。5月発表の24年1~3月期決算で1株利益が市場予想を大幅に上回り、株高が加速した。経営陣は説明会で、データセンターの電力を求める顧客からの関心が「この20年で他に類を見ない水準だ」と語った。関連銘柄への物色も旺盛で、原発燃料のウランを供給するカメコや原発部品のBWXテクノロジーも高い。
電力消費の拡大に伴い、インフラへの需要が高まるとの期待も大きい。電気設備の工事などを手掛けるエムコア・グループやクアンタ・サービシズの上昇が目立つ。データセンターの電力効率を高める冷却装置を販売するバーティブ・ホールディングスは22年末比で7.2倍と株高が著しい。電線や発電設備に使う銅を生産するフリーポート・マクモランとサザン・コッパーも買われている。
電力需要の増加に伴い、風力や太陽光といった再生エネの供給が一段と増えるとの見方がある。米株式市場では、風力発電機を手掛けるGEベルノバへの注目度が高い。GEから分離・独立して4月に上場し、株価は堅調だ。市場では、規模や競争優位性の観点から「投資家が待ち望んだ銘柄だ」(エバコアISI)との評価を受けている。
太陽光発電の関連では、ファースト・ソーラーが比較的堅調だ。保有有価証券報告書によれば、「世紀の空売り」で知られる著名投資家マイケル・バーリ氏が率いるサイオン・アセット・マネジメントが24年1~3月期に株式を買ったと話題になった。一方、エンフェーズ・エナジーなど家庭向けが主力の会社は金利上昇などの逆風もあって盛り上がりを欠いたままだ。
◎電力関連株の値動き(上昇率は22年末~24年5月31日)
銘柄(チッカー) | 主な事業 | 騰落率 |
ヴィストラ(VST) | 電力供給 | 4.3倍 |
NRGエナジー(NRG) | 電力供給 | 2.5倍 |
コンステレーション・エナジー(CEG) | 電力供給 | 2.5倍 |
デューク・エナジー(DUK) | 電力供給 | △0.5% |
サザン・カンパニー(SO) | 電力供給 | △12.2% |
イートン(ETN) | 電力装置 | 2.1倍 |
バーティブ・ホールディングス(VRT) | 冷却装置 | 7.2倍 |
クアンタ・サービシズ(PWR) | インフラ | △93.6% |
エムコア・グループ(EME) | インフラ | 2.6倍 |
マステック(MTZ) | インフラ | △31.5% |
ファーストソーラー(FSLR) | 太陽光発電 | △81.4% |
エンフェーズ・エナジー(ENPH) | 太陽光発電 | ▲51.7% |
ソーラーエッジ・テクノロジーズ(SEDG) | 太陽光発電 | ▲82.7% |
GEベルノバ(GEV) | 風力発電機 | △25.6%(上場初日以来) |
フリーポート・マクモラン(FCX) | 銅生産 | △38.7% |
サザン・コッパー(SCCO) | 銅生産 | △98.4% |
BWXテクノロジーズ(BWXT) | 原発部品 | △58.6% |
カメコ(CCJ) | ウラン供給 | 2.4倍 |